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「退職代行」による退職を経験した企業は7.2%――「言い出しにくい退職」をなくす三つの設計

東京商工リサーチの調査では、退職代行業者からの連絡を受けた企業は7.2%、大企業では15.7%に上ります。利用が特殊な事例ではなくなった今、人事担当者・経営層が押さえておくべき三つの設計を解説します。

公開日
2026/08/05
更新日
2026/08/05
読了時間
9
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
離職防止退職代行労務管理

退職代行の利用は、もう「特殊な事例」ではありません

ある日突然、見慣れない番号や退職代行業者の名前で電話が入り、「本日をもって退職します」と告げられる。かつては一部の企業だけの出来事だったこの場面は、今や規模を問わず多くの企業にとって現実の経営課題になっています。

東京商工リサーチが2025年6月に実施した企業向けアンケート調査(有効回答6,653社)によると、2024年1月以降に退職代行業者から退職手続きの連絡を受けた企業は7.2%に上りました。従業員規模別に見ると、大企業では15.7%と、中小企業(6.5%)の2倍以上に達しています。

2024年1月以降、退職代行業者を利用した従業員の退職があった企業は7.2%(481社)。規模別では大企業15.7%(489社中77社)に対し、中小企業6.5%(6,164社中404社)で、大企業とは2倍以上の開きがあった。(東京商工リサーチ「2025年 企業の『退職代行』に関するアンケート調査」2025年6月19日発表)

業種別に見ると、百貨店などを含む各種商品小売業や、美容・理容業、クリーニング業などで利用経験のある企業の割合が高く、同調査は「消費者と直接対面する接客業や販売業、宿泊業など、BtoC業界での利用が多い」と分析しています。大企業で利用が多いのは、母数が大きいことに加え、福利厚生や退職手続きが整備されており、一人ひとりの退職による影響が小さいために、しがらみなく退職しやすい心理が働くためとみられます。

個人側の調査でも、傾向は同じ方向を示しています。マイナビキャリアリサーチLabの調査(2024年)では、直近1年間に転職した人のうち16.6%が退職代行サービスを利用したと回答しました。職種別では「営業」が25.9%で最も高く、「クリエイター・エンジニア」が18.8%、「企画・経営・管理・事務」が17.0%と続いています。企業側の実感としても、退職代行を利用した退職者を経験した割合は2021年の16.3%から2023年には19.9%へと、年々増加傾向にあることが明らかになっています。

直近1年間に転職した人で退職代行を利用した人は16.6%。企業側でも、退職代行を利用した退職者の経験割合は2021年16.3%、2022年19.5%、2023年19.9%と年々増加傾向にある。(マイナビキャリアリサーチLab「退職代行サービスに関する調査レポート」2024年10月3日発表)

退職代行はもはや一部の特殊な事例ではなく、業種・規模を問わずどの企業でも起こりうる出来事になりました。問われているのは「使われるかどうか」ではなく、「使われたときに、組織としてどう受け止め、何を変えるか」です。

なぜ、社員は「代行」を選ぶのか

マイナビの調査では、退職代行を利用した理由として「退職を引き留められた(引き留められそうだ)から」が40.7%で最多となりました。次いで「自分から退職を言い出せる環境でないから」が32.4%、「退職を伝えた後トラブルになりそうだから」が23.7%と続いています。また、今後も退職代行を利用したいと答えた人は、過去の利用者に限ると74.2%にのぼりました。

この結果が示しているのは、退職代行の利用が個人の資質や忍耐力の問題ではなく、「言い出しにくさ」という組織側の環境要因に強く影響されているという事実です。引き止めの強さや、退職を切り出しにくい職場の空気が、結果として社員を代行サービスへ向かわせています。

退職代行がもたらす、現場と採用への影響

東京商工リサーチの同調査では、退職代行を利用した退職が業務に与えた影響として、「退職者の業務をカバーするため、従業員の残業が発生した」が31.1%で最多でした。「引き継ぎが円滑にできず、商品・サービスの提供に影響が出た」も23.4%に上り、「退職代行を活用しない退職手続きより時間がかかった」も21.8%を占めています。

採用活動への影響も見逃せません。退職代行を経験した企業のうち74.0%は「その後の採用活動に影響はない」と回答した一方、20.8%は「応募者の転職回数や職歴をより厳格に見極めるようになった」、10.2%は「リファレンスチェックを厳格化した」と答えています。個々の退職への対応がその場しのぎのまま積み重なると、残業増加・引き継ぎ不全・採用基準の過剰な厳格化という形で、じわじわと組織の体力を消耗させることになります。

「言い出しにくい退職」をなくす三つの設計

ここまでのデータが示すのは、退職代行への対応が「個々のトラブル処理」ではなく「組織の仕組みの点検」であるべきだということです。ここからは、一次対応・日常の対話・振り返りという3つの観点から、具体的な設計を解説します。

設計1:一次対応を型化し、感情的な引き止めを個人に負わせない

退職代行からの連絡を受けたとき、最初に確認すべきは運営主体の種類です。弁護士法第72条は、弁護士資格のない者が報酬を得て法律事務(交渉など)を扱うことを禁じており、これに反する行為は非弁行為と呼ばれます。この規定により、民間企業が運営する退職代行は、退職の意思を伝える「使者」としての役割にとどまり、退職日や有給消化などの条件交渉を行う法的権限を持ちません。一方、労働組合が運営する退職代行は、労働組合法上の団体交渉権に基づいて条件交渉を申し入れることができ、企業側はこれに誠実に応じる義務を負います。弁護士が運営する場合は、金銭請求を含む法律事務全般に対応できます。この違いを人事担当者が事前に理解していないと、交渉権限のない業者からの要求にその場で応じてしまったり、逆に応じるべき団体交渉を拒んでトラブルを拡大させたりしかねません。

  • 実施チェック:退職代行から連絡を受けたときの一次窓口と、運営主体別(民間・労働組合・弁護士)の対応範囲が文書化されているか
  • 実施チェック:交渉権限の有無にかかわらず、感情的な引き止めや説得を担当者個人の裁量に任せていないか
  • 実施チェック:貸与品の回収や離職票の発行など、事務手続きのフローが退職代行経由でも滞りなく回るよう標準化されているか

設計2:「言い出しやすい退職」の導線を、日常の対話の中につくる

退職代行が選ばれる最大の理由が「引き留められそうだから」「言い出せる環境でないから」である以上、対策の本丸は退職を引き止めることではなく、退職の意思を安全に話せる状態をあらかじめつくっておくことです。1on1やキャリア面談が実質的な「引き止めの場」になっていないか、直属の上司以外にも相談できる窓口があるかを、あらためて点検する必要があります。

  • 実施チェック:1on1やキャリア面談で、異動・転職・退職といった話題が事実上のタブーになっていないか
  • 実施チェック:直属の上司との関係が理由で言い出しにくい場合に備え、人事や第三者窓口への相談経路が周知されているか
  • 実施チェック:退職意向を伝えた社員に対して、引き止めの説得よりも先に、理由を安心して話せる場を設けているか

設計3:検証は「仕組み」の点検にとどめ、選考の過剰な厳格化に走らない

退職代行を経験した企業の20.8%が応募者の見極めを厳格化したと回答していますが、ここには注意が必要です。退職代行の利用者の多くは、引き止めや言い出しにくさに困っていた「普通の社員」であり、退職代行を利用したこと自体を選考時の排除理由にすることは、人手不足のなかで応募者層を自ら狭める諸刃の剣になりかねません。同じ調査で74.0%の企業が「採用への影響はない」と回答している事実も踏まえ、検証すべきは応募者個人の資質ではなく、「なぜ社内で言い出せなかったのか」という自社の仕組みの側です。

  • 実施チェック:退職代行が利用された事案について、個人ではなく仕組み・風土の面から原因を振り返る場を設けているか
  • 実施チェック:選考基準の見直しが、特定の属性や経歴に対する偏見に基づく排除につながっていないか、人事内で確認しているか
  • 実施チェック:管理職向けに、部下から退職の申し出を受けた際の初期対応(傾聴・引き継ぎ調整)に関する研修を行っているか

まとめ

退職代行の利用拡大は、個々の社員の意志の弱さの表れではなく、組織の中に「言い出しにくさ」が積み重なっていることの表れです。一次対応の型化、日常的な対話の導線、そして仕組みとしての振り返りという三つの設計を通じて、退職代行に頼らずに済む組織づくりを進めることができます。

退職代行の利用に至る前段階、つまり「退職したい」と伝えられた直後の初動対応(48時間ロードマップ)については、退職したいと言われたときにまず何から始める?もあわせてご覧ください。

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Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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