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退職したいと言われたときにまず何から始める?

ある日突然、信頼していたメンバーから「お話があります」と切り出され、退職の意向を告げられたとき、上司や人事は「なぜ今なのか」「どうすれば撤回してもらえるか」を瞬時に考えがちです。しかし、その瞬発的な発想こそが、退職をかえって早めてしまう典型的な落とし穴です。

公開日
2026/05/11
更新日
2026/05/11
読了時間
13
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
離職・定着1on1マネジメント

WONDERFUL GROWTH | HP Article

退職したいと言われたときにまず何から始める?

~引き止め交渉ではなく「対話設計」から始める、人事・管理職のための初動48時間ロードマップ~

想定読者:人事担当者・管理職/カテゴリ:離職・定着/更新日:2026年5月11日

1.はじめに:「退職したい」は、すでに引き止めるべき局面ではない

ある日突然、信頼していたメンバーから「お話があります」と切り出され、退職の意向を告げられたとき、上司や人事は「なぜ今なのか」「どうすれば撤回してもらえるか」を瞬時に考えがちです。しかし、その瞬発的な発想こそが、退職をかえって早めてしまう典型的な落とし穴です。

まず、足元の客観データを押さえます。厚生労働省「令和7(2025)年上半期 雇用動向調査結果の概況」によれば、2025年上半期の離職者は約432万人、離職率は7.6%で、横ばいから微増の傾向が続いています。転職入職者の前職を辞めた理由を見ると、男女ともに「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」「職場の人間関係が好ましくなかった」が上位を占め、構造的な働き方への不満が継続していることが分かります(注1)。

一方で、パーソル総合研究所「日本の『離職理由』はどう変化したのか―データから見る新しいリテンション・マネジメント」(2025年)は重要な変化を示しています。2019年と2025年の比較では、「サービス残業が多い」「労働時間が長い」など就業負荷への不満が大きく低下した一方、「上司の指示や考えに納得できない」「求められる成果が重すぎる」「受けている評価に納得できない」など、納得感の欠如に関する不満が上位に上昇しました(注2)。離職の重心は「働きすぎ」から「納得できないから去る」へと移っているのです。

加えて、同研究所「離職の変化と退職代行に関する定量調査」(2025年12月発表)では、離職者のうち5.1%(約20人に1人)が退職代行を利用しており、利用者の前職在籍期間は「1年未満」が約4割と、早期離職・対話放棄型の退職が一定割合に達していることが示されました(注3)。つまり、退職意向が口頭で伝えられた時点は「すでに対話が成立しているだけマシな局面」であり、ここでの初動が組織全体のリテンションに直結します。

本記事では、感情的な引き止めや条件提示の前にまず行うべき初動を、5ステップのフレームと実施チェックに分解してお伝えします。読者の現場感覚と公的データを突き合わせながら、明日からの面談に活かせる実践型ガイドとしてご活用ください。

2.最初に避けたい、3つの即時NG対応

「退職したい」と告げられた直後、相手がもっとも観察しているのは上司や人事の「最初の30秒」です。次のNG対応は、相手の意思決定を不可逆にしやすいため、まず封印してください。

NG1:その場で慰留条件を提示する

「給与を上げる」「異動を検討する」など、退職理由を聞ききる前に条件提示を行うと、相手は「やはり言わなければ動かない組織だった」と判断します。条件交渉に持ち込むほど、組織への信頼は逆に下がります。

NG2:感情的に「裏切られた」と反応する

「君に期待していたのに残念だ」「今このタイミングで言うか」などの言葉は、相手に罪悪感を抱かせ、本音の退職理由を語る経路を閉じてしまいます。退職代行が選ばれる背景には、まさにこの「本音を言える関係性の欠如」があります。

NG3:即日で「分かった、では退職届を」と処理してしまう

逆に、感情を排して事務的に処理することも、組織側の改善機会を失うNG対応です。退職意思の表明は、組織にとって「現場の課題が顕在化した警報」でもあります。即決せず、まず情報を取りに行く姿勢が必要です。

3.まず何から始めるか:初動5ステップフレーム

退職意向を告げられたときに最初に取るべき行動を、5つのステップに分解します。各ステップには「実施チェック」を付しましたので、面談前後で確認しながら使ってください。

Step

目的

やること

避けること

1

即決を避け、対話の場を確保する

24時間ルールで再面談を設定

その場での条件交渉

2

事実と感情を切り分けて傾聴する

オープン質問で5W1Hを言語化

反論・正当化

3

退職理由を3層で構造化する

顕在/潜在/引き金を分解

表面的理由のみで判断

4

組織側の対応可能性を判定する

制度/関係性/個別配慮の3層評価

上司単独の口約束

5

結論と関係設計を行う

撤回/円満退職いずれにも価値設計

感情的決裂

Step 1:「24時間ルール」で対話の場を確保する

退職意向を伝えられた直後は、双方が感情的に高ぶっています。その場で結論を出さず、最低でも24時間、できれば48時間以内に「正式な1on1面談」を再設定することを推奨します。これは引き延ばしではなく、対話の質を担保するための時間設計です。

再面談は、業務時間内・静かな会議室・上司と本人の1対1で実施します。人事を同席させるかは本人の希望を確認します。同席者を増やすほど本音は出にくくなる傾向があるため、初回は基本1対1とし、必要に応じて2回目以降に人事が加わる流れが望ましいでしょう。

実施チェック:再面談を24時間以内に予約したか/場所は周囲に話を聞かれない環境か/本人に「結論を急がせない」旨を口頭で伝えたか。

Step 2:事実と感情を切り分け、傾聴に徹する

再面談ではまず、上司から「あなたの判断を尊重したい。まずは決断に至った経緯を教えてほしい」と切り出します。ここでの目的は説得ではなく、退職理由を相手の言葉で言語化してもらうことです。

質問はオープン型で構成します。たとえば「いつ頃から考え始めたのか」「決定的だった出来事は何か」「もし条件が異なれば残る選択肢はあったか」など、5W1Hに沿って事実情報を引き出します。判断や反論は挟まず、「そう感じたのですね」と感情を承認するに留めます。

ここで重要なのは、退職理由は1つではないという前提です。パーソル総合研究所の調査でも、離職につながりやすい不満の上位3要素は単独ではなく複合的に作用していることが示されています(注2)。1つの理由に飛びつかず、複数の要因が積み重なった結果である可能性を念頭に置いてください。

実施チェック:オープン質問を5問以上用意したか/本人の発言を遮らず最後まで聞けたか/メモは事実部分のみに絞り、評価語を書かなかったか。

Step 3:退職理由を「3層」に構造化する

ヒアリングで得た情報を、面談後すぐに次の3層に整理します。

顕在理由:本人が言葉として明示した理由(例:給与・残業時間・上司との関係)。

潜在理由:本人が明言していないが、発言の文脈や行動履歴から推測される理由(例:成長機会の欠如、評価への納得感の不足)。

引き金イベント:退職決断の最後のひと押しとなった具体的な出来事(例:評価面談での発言、人事異動、家族の状況変化)。

この3層分解は、後の対応判断を誤らないために不可欠です。たとえば「給与が低い」という顕在理由の背後に「評価プロセスへの不信」という潜在理由がある場合、賃上げだけでは離職を止められません。パーソル総合研究所の調査が示すとおり、納得感の欠如こそが現在の離職の主因であり、表層の条件改善では効果が薄いのです(注2)。

実施チェック:3層それぞれを1文以上で文書化したか/潜在理由を裏付ける具体的な過去発言や行動を1件以上添えたか/引き金イベントの発生日時を特定したか。

Step 4:組織側の対応可能性を「3層」で判定する

Step 3で構造化した退職理由ごとに、組織として打てる手を3層で評価します。安易な口約束ではなく、実行可能性の確かさを評価することがポイントです。

制度層:人事制度・評価制度・賃金テーブルなど、組織横断で変更が必要な領域。短期では動かしにくいが、根本解決には不可欠。

関係性層:上司との関わり方、チーム編成、業務分担など、組織変更を伴わずに調整可能な領域。1〜2か月で着手できる。

個別配慮層:本人の事情に応じた働き方の柔軟化、役割の再設計など、本人と上司の合意で即時対応可能な領域。

どの層で対応するかを明示し、対応するなら誰がいつまでに何をするのかを書面化します。口頭での約束は信頼回復にはつながりません。可能であれば、人事側で「対応プラン提示書」を1枚の文書として残すと、社内合意の精度が上がります。

実施チェック:3層それぞれで「対応可能/不可能」を明示したか/対応する場合の責任者と期限を明文化したか/本人に提示する前に上長または人事責任者の合意を得たか。

Step 5:結論と継続関係を設計する

Step 4の対応プランを本人に提示し、最終的な意思を確認します。ここで重要な視点は、「退職撤回」と「円満退職」のどちらの結論であっても、組織にとって価値が残る設計を行うことです。

撤回の場合は、引き止めた条件の実行責任を負う体制(誰が・何を・いつまでに)を、上司・本人・人事の三者で確認します。引き止め後の対応が形骸化すると、引き止めに応じた人の約65%が1年以内に再び退職を考え始めるという指摘もあります(注4)。

円満退職の場合は、退職日までの引き継ぎ計画と、退職後のアルムナイ(卒業生)ネットワークへの参加可能性を伝えます。退職代行を選ばずに正面から退職を伝えてくれたメンバーは、組織にとって最も貴重な情報源です。退職後にカジュアル面談として「リアル退職理由」を聞ける関係を保てれば、後続のリテンション施策に直結します。

実施チェック:結論を本人の言葉で確認したか/撤回の場合は実行責任者と期限を文書化したか/円満退職の場合は退職後の関係性(アルムナイ参加等)を提示したか。

4.退職を「言われる前」に仕込む:ステイインタビューという発想

ここまでは「退職を告げられた後」の初動を扱いましたが、本来の理想は退職意向が口頭化される前に課題を察知することです。エグジットインタビュー(退職面談)ではなく、ステイインタビュー(在籍中の継続面談)という発想が、近年欧米HRを中心に再注目されています。

ステイインタビューは、4半期に1回など定期的なタイミングで、上司または人事が1対1で「いま組織に残っている理由」「現状で続いている不満」「キャリアの希望」を聞く面談です。退職時の聞き取りと違い、改善に活かせるタイミングで情報が取れるのが最大の利点です。

観点

ステイインタビュー

エグジットインタビュー

実施タイミング

在籍中の定期面談

退職決定後

情報の活用余地

本人にも組織にも反映可能

本人には反映不可(次世代向け)

実施主体

直属上司が一次担当

人事が中心

聞く内容

残っている理由・続く不満・将来希望

辞める理由・組織への提言

ステイインタビューを定例化するだけで、退職意向の早期察知率が大きく向上することが各社の運用事例から報告されています。特に、評価面談とは別の枠で実施することが重要です。評価面談に組み込むと、本人が「評価に響かない範囲」でしか発言しなくなり、本音情報の質が下がります。

実施チェック:ステイインタビューと評価面談を別枠で運用しているか/実施頻度(四半期に1回など)を明文化したか/聞き取った情報を人事と上司で共有する仕組みがあるか。

5.よくある3つの失敗パターンと回避策

失敗1:上司単独で口約束をしてしまう

「給与を上げる」「異動させる」など、人事や経営側の合意なしに口頭で約束してしまい、後で実行できず信頼を失うケースです。回避策は、Step 4で示したとおり、対応可能性を3層で評価し、書面で人事責任者の合意を得てから本人に提示することです。

失敗2:退職理由を1つに絞ってしまう

「結局は給与だろう」「最近の若い人は」と理由を単純化することで、複合的な要因のうち本質的な要素を見落とすケースです。Step 3の3層分解を徹底し、複数要因の組み合わせとして可視化することで回避できます。

失敗3:退職決定後のフォローを怠る

「もう辞める人だから」と引き継ぎ以外のコミュニケーションを最小化してしまい、結果としてSNS・口コミサイト等で組織への悪印象が拡散するケースです。退職者は最大の社外広報になります。アルムナイ・ネットワークへの参加打診や、退職後のカジュアル面談実施など、長期的関係を維持する設計をStep 5で組み込んでください。

6.初動48時間ロードマップ

ここまでの5ステップを、時間軸で整理した実務用ロードマップを示します。

経過時間

やること

担当

0〜30分

傾聴のみ。条件交渉せず、再面談を提案

直属上司

30分〜4時間

上司から人事へ第一報。記録テンプレに事実のみ整理

直属上司/人事

4〜24時間

退職理由を3層に構造化/対応可能性を3層で初期評価

人事+直属上司+上長

24〜48時間

正式な再面談。対応プランを書面で提示し意思を確認

直属上司+人事

48時間以降

撤回時は実行責任者を確定/退職時はアルムナイ案内

人事中心

実施チェック:48時間以内に正式再面談を完了させる体制があるか/第一報を受ける人事担当の窓口を明確化しているか/対応プランを記録するフォーマットを準備しているか。

7.まとめ:「引き止め」ではなく「対話設計」へ

退職を告げられたとき、私たちはつい「引き止めの技術」を探しがちです。しかし、本記事で示したとおり、いま現場で起きているのは「働きすぎ」ではなく「納得感の欠如」を主因とする離職への構造的シフトです。条件提示の早撃ちでは止まらず、対話の質と組織の応答力こそが鍵を握ります。

まず、「退職したい」と聞いた瞬間に避けるべき3つのNG対応を意識し、24時間ルールで対話の場を整える。次に、退職理由を3層に分解し、組織側の対応可能性も3層で判定する。そして、撤回・退職のいずれの結論でも組織に価値を残す関係設計を行う。これが、本記事でご提案した初動の全体像です。

さらに、退職意向が口頭化する前にステイインタビューを定例化することで、対話成立の機会を増やし、退職代行や音信不通による退職といった「対話放棄型」の離職リスクを減らせます。離職への向き合い方を「事後の慰留」から「事前の対話設計」へとシフトさせる、本記事がその第一歩となれば幸いです。

資料請求のご案内

WONDERFUL GROWTHでは、本記事で取り上げた「ステイインタビューの導入支援」「離職予兆を捉える1on1の設計」「管理職向け対話力研修」など、離職・定着領域の組織開発プログラムを提供しております。自社の課題に即した具体的な事例集と研修プログラムの詳細資料を、下記より無料でご請求いただけます。

資料請求はこちらから:https://wonderful-growth.com/contact

「自社にとって最初に着手すべきは制度層か関係性層か」「ステイインタビューを評価面談から切り離す運用設計の進め方」など、個別のご相談も承っております。資料請求フォームよりお問い合わせください。

出典・参考資料

(注1)厚生労働省「令和7(2025)年上半期 雇用動向調査結果の概況」(2025年公表)。離職率、産業別離職率、転職入職者の前職離職理由を参照。

(注2)パーソル総合研究所「日本の『離職理由』はどう変化したのか―データから見る新しいリテンション・マネジメント」(2025年)。離職につながりやすい不満の構造変化、納得感欠如の影響を参照。

(注3)パーソル総合研究所「離職の変化と退職代行に関する定量調査」(2025年12月)。退職代行利用率5.1%、利用者年齢層・在籍期間データを参照。

(注4)退職引き止め後の再退職検討率に関する各種HRシンクタンク調査の整理(2025年公開)。実数値は調査により幅があるため、引き止め後フォローの重要性の根拠として参照。

その他参照:厚生労働省「人材開発支援助成金(令和8年度/2026年度版)」、経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」(2022年5月)、日本の人事部「人事白書2025」。

Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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