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心理的資本(PsyCap)とは?社員の粘り強さと前向きさを育てる5ステップ

仕事に強い不安やストレスを感じる労働者は68.3%に上ります。目標への希望・自己効力感・レジリエンス・楽観性からなる「心理的資本」は、後天的に伸ばせる心の資源です。学術研究をもとに、社員の粘り強さと前向きさを組織的に育てる5つのステップを解説します。

公開日
2026/09/06
更新日
2026/09/06
読了時間
11
著者
WONDERFUL GROWTH 編集部
心理的資本PsyCap人材育成エンゲージメントレジリエンス

なぜ今、心理的資本が組織の課題なのか

社員には、仕事にやりがいを感じ、困難があっても前向きに乗り越えてほしい。多くの経営層や人事担当者が、そう願っています。しかし現実には、社員の心の余力は決して大きくありません。厚生労働省の「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」(2025年8月公表)によると、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は68.3パーセントに上ります。およそ3人に2人が、強いストレスを抱えながら働いている計算です。

知識やスキルを教える研修だけでは、この状態を変えることはできません。困難に直面したときに立ち直る力や、目標に向かって粘り強く取り組む力といった、心の内側にある資源そのものを育てる視点が必要です。この視点を経営学として体系化したのが、米ネブラスカ大学の経営学者フレッド・ルーサンス教授らが提唱した「心理的資本(Psychological Capital、通称PsyCap)」という概念です。

心理的資本とは、気合いや根性といった精神論を指す言葉ではありません。後天的に開発できる心理的な資源として、経営学の分野で研究が積み重ねられてきた概念です。

本記事では、心理的資本の中身を学術的な知見にもとづいて整理したうえで、社員の粘り強さと前向きさを組織的に育てるための5つのステップを解説します。

心理的資本(PsyCap)とは

具体的な取り組みを検討する前に、心理的資本がどのような資源で構成され、どのような効果を持つのかを押さえておきましょう。

定義:4つの心理的資源からなる「HERO」

心理的資本とは、フレッド・ルーサンス教授らが2000年代に提唱した概念です。次の4つの前向きな心理的資源から構成され、頭文字を取って「HERO」とも呼ばれます。

  • Hope(ホープ):目標を達成するための道筋を自ら描き、やり抜こうとする意志の力
  • Efficacy(自己効力感):困難な課題でも自分はやり遂げられるという自信
  • Resilience(レジリエンス):逆境や失敗に見舞われても、そこから立ち直る力
  • Optimism(楽観性):現在と将来の成功について、現実的で前向きな見通しを持つ姿勢

ルーサンス教授らは、2007年の著書『Psychological Capital: Developing the Human Competitive Edge』(Oxford University Press)で、この4つの資源の関係を説明しています。個別に働くよりも、一つにまとまって機能したときに、それぞれを足し合わせた以上の効果を発揮するという考え方です。また、生まれ持った性格のように固定された特性ではなく、研修や経験によって後天的に伸ばせる「状態」に近い資源である点が、心理的資本の重要な特徴です。

なぜ重要なのか:メタ分析が示す効果

心理的資本が組織に与える影響については、実証研究が積み重ねられています。ジェームズ・エイビー氏らの研究チームが2011年、学術誌『Human Resource Development Quarterly』にメタ分析を発表しました。51件の独立したサンプル、合計1万2,567人分の従業員データを統合した分析です。

その結果、心理的資本は職務満足感・組織コミットメント・心理的な幸福感といった望ましい態度と、有意な正の関連を示しています。本人評価・上司評価・客観指標のいずれで測定した業績とも、同様に正の関連が確認されました。反対に、シニシズム(冷笑的な態度)や強いストレス、離職の意向とは負の関連が確認されています。

日本国内でも、心理的資本と従業員の離脱行動(離職につながる消極的な行動)との関係を検証した研究があります。愛知学院大学に提出された学位論文研究で、心理的資本の高さが離脱行動を抑える方向に働くと報告されています。心理的資本は、精神論にとどまらず、離職防止やエンゲージメント向上の実務に直結する資源として捉えられます。

心理的資本の開発が必要な3つの背景

心理的資本という考え方が、今の日本の組織運営で注目される背景には、次の3つがあります。

背景1:仕事のストレスが高止まりしている

前述のとおり、強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者は68.3パーセントに上ります。ストレスの原因そのものをすべて取り除くことは容易ではありませんが、同じ負荷を受けても、それをどう受け止め、どう乗り越えるかという心の内側の資源には個人差があります。心理的資本は、この受け止め方と乗り越え方に働きかけるアプローチです。

背景2:後天的に開発できることが実証されている

心理的資本は、意図的な働きかけによって伸ばせる資源だと位置づけられています。ルーサンス教授らは2008年、学術誌『Academy of Management Learning & Education』に実験研究を発表しました。187人の参加者にHEROの4要素に焦点を当てた2時間程度のウェブ研修を実施し、研修を受けていない177人を統制群として比較する内容です。その結果、研修を受けた参加者の心理的資本の水準が有意に高まったことが確認されています。比較的短時間の働きかけでも変化が見込める点は、人材育成に取り入れるうえで実務上の利点です。

背景3:個人の資質の問題として片づけられてきた

粘り強さや前向きさは、これまで「本人の性格や資質の問題」として、教育や研修の対象から外されがちでした。しかし心理的資本の枠組みは、これらを測定でき、開発もできる経営資源として捉え直します。属人的な精神論から、再現性のある人材育成の取り組みへと転換できる点に、心理的資本を学ぶ意義があります。

心理的資本を育てる5つのステップ

ここからは、HEROの4つの資源を組織的に育て、実務に落とし込むための5つのステップを、実施チェックとともに解説します。

ステップ1:目標に複数の道筋を描き、Hope(ホープ)を育てる

ホープとは、単なる願望を指すのではありません。目標に向かういくつもの道筋を思い描き、その道筋を進み続ける意志を伴う心の働きです。管理職の役割は、部下に目標を課すことにとどまりません。その目標に到達する方法が一つではないことを、部下と一緒に確認する役割も担います。1on1の場で「もし今のやり方がうまくいかなかったら、次にどんな方法がありそうか」と問いかけ、複数の選択肢を本人の言葉で言語化してもらうことが有効です。大きな目標を、進捗が見える小さな節目に分解することも、途中で道筋を見失わせない工夫です。

  • 実施チェック:目標に到達する方法を、本人が複数思い描けていますか。
  • 実施チェック:大きな目標を、進捗が見える小さな節目に分解していますか。

ステップ2:小さな成功体験を積み重ね、Efficacy(自己効力感)を高める

自己効力感は、根拠のない自信とは異なり、実際にやり遂げた経験の積み重ねによって育ちます。いきなり大きな挑戦を課すよりも、少し背伸びをすれば届く難易度の課題を意図的に用意し、達成した際には何ができたのかを具体的な言葉で承認することが土台です。加えて、身近なロールモデルが同様の課題を乗り越える姿を見る経験も、自己効力感を高める有効な手段です。難易度の高い業務を任せるときほど、成功に至る手順を分解して見せる工程を省かないことが重要です。

  • 実施チェック:本人にとって少し背伸びが必要な課題を、意図的に用意していますか。
  • 実施チェック:達成した際に、何ができたのかを具体的な言葉で承認していますか。

ステップ3:振り返りの型をつくり、Resilience(レジリエンス)を鍛える

レジリエンスは、逆境そのものをなくす力ではなく、逆境に見舞われたあとに立ち直る力を指します。失敗やトラブルが起きた際には、個人の責任を問い詰めることよりも、振り返りを優先することが大切です。振り返りの型は「何が起きたか」「そこから何を学べるか」「次にどう活かすか」の順とし、チームの共通の進め方として持つことが有効です。この振り返りは、上司が一方的に結論づけず、本人が自分の言葉で整理できるように問いかけることで、レジリエンスを本人の力として定着させます。

  • 実施チェック:失敗やトラブルの後に、責め合わずに学びを振り返る場を設けていますか。
  • 実施チェック:振り返りを、本人が自分の言葉で語れるように問いかけていますか。

ステップ4:出来事の受け止め方を見直し、Optimism(楽観性)を育てる

ここでいう楽観性は、根拠のない楽観ではなく、うまくいかなかった原因を「一時的なもの」「特定の状況に限られたもの」として捉え直す、現実的な楽観性を指します。反対に、うまくいかなかった原因を「自分の能力全般の問題」や「今後も変わらないもの」として捉えてしまうと、次への意欲は失われやすくなります。管理職には、部下がつまずいたときに「今回は準備の時間が足りなかっただけで、あなたの能力の問題ではない」というように、原因を状況要因に切り分けて伝える関わり方が求められます。

  • 実施チェック:うまくいかなかった原因を、本人の能力全般のせいにしていませんか。
  • 実施チェック:次にうまくいく可能性を、具体的な根拠とともに伝えていますか。

ステップ5:4つの資源を組織の仕組みに組み込み、育て続ける

ホープ・自己効力感・レジリエンス・楽観性は、単発の研修だけで定着するものではありません。管理職研修のカリキュラムに組み込み、1on1の対話の型として日常業務に埋め込むことが土台です。加えて、評価制度のなかで挑戦や振り返りのプロセスを承認する仕組みとつなげることで、初めて組織の力として根づきます。定期的なサーベイなどで心理的資本の状態を継続的に把握し、変化を確認しながら取り組みを調整していく姿勢も欠かせません。

  • 実施チェック:心理的資本の4要素を、単発の研修で終わらせずに仕組みに組み込んでいますか。
  • 実施チェック:心理的資本の状態を、定期的なサーベイなどで継続的に把握していますか。

心理的資本は、これからの組織づくりの土台になる

仕事に強い不安やストレスを感じる労働者が68.3パーセントに上る今、社員の粘り強さや前向きさを個人の性格の問題として片づけていては、組織の力は育ちません。心理的資本は、ホープ・自己効力感・レジリエンス・楽観性という4つの資源を、後天的に開発できる経営資源として捉え直す考え方です。日々の1on1や振り返り、評価制度のなかにこの視点を組み込むことで、社員一人ひとりの心の資源を、組織の持続的な成果につなげられます。

精神論に頼らず、根拠のある知見にもとづいて人材育成を設計したいと考える企業にとって、心理的資本は着手しやすく、効果を確認しやすいテーマの一つです。

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Editor’s Note

本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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