厚生労働省が2026年7月15日に公表した「令和7年度 過労死等の労災補償状況」で、精神障害に関する労災請求件数が4,958件となり、過去最多を更新しました。前年度から1,178件の増加です。背景には、パワーハラスメントやカスタマーハラスメントを含む職場のハラスメント、そして仕事内容や仕事量の急激な変化があります。人事担当者や経営層にとって、これはもはや一部の企業だけの問題ではなく、自社の従業員を守り、企業としての責任を果たすための経営課題です。本記事では、最新データが示す実態を整理したうえで、精神障害の労災を未然に防ぐために組織が取り組むべき5つの実践ステップを解説します。
精神障害の労災請求は4,958件で過去最多を更新
厚生労働省の発表によると、2025年度(令和7年度)中に請求された精神障害に関する労災件数は4,958件で、前年度から1,178件増加しました。このうち、実際に労災と認定された支給決定件数は1,082件で、前年度から26件増加しています。請求件数・支給決定件数のいずれも、過去最多を記録しました。
支給決定件数は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」222件、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」と「セクシュアルハラスメントを受けた」127件、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」113件の順に多い。(出典:厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」2026年7月15日公表)
業種別に見ると、請求件数は「医療、福祉」が1,288件と突出して多く、次いで「製造業」720件、「卸売業、小売業」645件と続きます。特定の業種に限らず、接客や対人業務の負荷が大きい職場や、慢性的な人手不足で一人当たりの業務量が増えやすい職場ほど、リスクが高まっている実態がうかがえます。
なぜ精神障害の労災は経営課題なのか
精神障害の労災が認定されると、企業には労働基準監督署による是正勧告だけでなく、被災した従業員やその家族から安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を受けるリスクが生じます。あわせて、「従業員を守らない会社」という評判の広がりは、既存社員の離職や、採用活動における応募者離れにもつながりかねません。精神障害の労災は、特定の従業員だけの問題ではなく、企業の人材戦略全体に影響する経営リスクとして捉える必要があります。
精神障害の労災を防ぐ職場づくりの5つの実践ステップ
以下では、パワーハラスメントやカスタマーハラスメントを背景とした精神障害の労災を未然に防ぐために、組織として取り組むべき5つのステップを紹介します。
ステップ1 経営トップが「ハラスメント対応は経営課題」だと明言する
現場の管理職や人事担当者がいくら注意喚起をしても、経営トップの姿勢が曖昧であれば、ハラスメント防止の取り組みは形だけのものになりがちです。まずは経営トップ自らがハラスメント防止方針を明文化し、全社に向けて定期的に発信することが出発点になります。
実施チェック
- ハラスメント防止方針が就業規則や社内規程に明文化されているか
- 経営トップが年1回以上、自らの言葉でハラスメント防止方針を全社に発信しているか
ステップ2 管理職に「一次対応」の型を教える
パワーハラスメントの訴えが最初に届くのは、多くの場合、直属の上司や現場の管理職です。ここでの初期対応を誤ると、事態を悪化させたり、相談者が二次被害を受けたりする恐れがあります。管理職研修では、ハラスメントの定義を教えるだけでなく、相談を受けたときに何を聞き、どこに報告し、どのように記録を残すかという「一次対応の型」まで踏み込んで教えることが重要です。
実施チェック
- 管理職全員が、パワーハラスメント・カスタマーハラスメントの一次対応研修を受けているか
- 相談を受けた際の聞き取り・報告・記録のフォーマットが整備されているか
ステップ3 相談窓口を「使われる窓口」に育てる
相談窓口を設置していても、実際に利用されていなければ意味がありません。相談したことが上司に伝わってしまうのではないか、相談しても何も変わらないのではないかという不安が、従業員の相談をためらわせます。相談窓口の存在を周知するだけでなく、匿名性の担保や、相談後のフィードバック期限を明確にすることで、初めて「使われる窓口」になります。
実施チェック
- 相談窓口の年間相談件数や匿名相談の比率を人事部門が把握しているか
- 相談を受けてからフィードバックまでの期限をルール化しているか
ステップ4 長時間労働と業務量の急変を早期に検知する
厚生労働省の調査でも、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事」は、精神障害の労災認定における主要な原因の一つに挙げられています。異動や昇進、担当替えなど、業務内容が大きく変わるタイミングは特に注意が必要です。労働時間データを月次で確認し、時間外労働が一定時間を超えた従業員や、業務内容が急激に変化した従業員には、個別のフォロー面談を組み込む仕組みが有効です。
実施チェック
- 時間外労働が一定時間を超えた従業員を早期に把握し、産業医面談などにつなげる仕組みがあるか
- 異動・昇進・担当替えの際に、個別フォロー面談を実施しているか
ステップ5 顧客対応の現場を「個人任せ」にしない
支給決定件数のうち、顧客や取引先、施設利用者からの著しい迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメントを原因とするものは、パワーハラスメントに次いで多くを占めています。現場の従業員が一人で理不尽な要求やクレームに向き合い続ける状態を放置しないよう、対応を打ち切る基準や、上司へのエスカレーションのルールを組織として明文化しておく必要があります。
実施チェック
- カスタマーハラスメントの定義と対応打ち切りの基準を文書化しているか
- 現場任せにせず、上司や専門部署にエスカレーションする体制を整えているか
まとめ
精神障害の労災請求が過去最多を更新した今、ハラスメント対策やメンタルヘルスケアは、一部の担当者だけが取り組む課題ではなく、経営層を含めた全社的な仕組みづくりが求められています。研修設計や管理職教育など、自社に合った取り組み方をご検討の際は、以下より資料請求ください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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