経済産業省の「健康経営優良法人」認定数は2026年に26,850社と過去最多を更新しました。一方で、出社していても体調不良で生産性が落ちる「プレゼンティーズム」は、健康関連コストの大部分を占めながら見過ごされがちです。実態と、組織で向き合うための三つの設計を解説します。
健康経営優良法人が過去最多を更新――それでも見えていない生産性の損失
経済産業省と日本健康会議は2026年3月、「健康経営優良法人2026」の認定法人を発表しました。大規模法人部門3,765法人、中小規模法人部門23,085法人の合計26,850社が認定され、前年の23,196社から3,600社以上増え、過去最多を更新しています。企業規模を問わず、健康経営に取り組む企業は着実に増えています。
しかし、健康経営という「制度」に取り組むことと、その「効果」を可視化できていることは別の問題です。多くの企業は健康診断の受診率や休職者数といった目に見える指標を把握している一方で、出社しているのに体調不良で生産性が落ちている状態、いわゆる「プレゼンティーズム」までは捉えきれていません。人事担当者や経営層が現場で感じる「なんとなく調子が悪そうだが、休むほどではない」という状態こそが、実は最も大きなコストを生んでいる可能性があります。
プレゼンティーズムとは何か
プレゼンティーズムとは、心身の不調を抱えながら出勤し、本来発揮できるはずのパフォーマンスを発揮できていない状態を指す概念です。欠勤によって生じる損失を指す「アブセンティーズム」と対をなす言葉として、産業保健や健康経営の分野で使われています。
厚生労働省が公表する資料では、企業が負担する健康関連総コストの内訳として、医療費が15.7%、アブセンティーズム(欠勤)が4.4%であるのに対し、プレゼンティーズムが77.9%を占めるという分析が示されています。
欠勤や医療費という目に見える形で現れるコストよりも、出社しているのに生産性が上がらないという、見えにくいコストの方がはるかに大きいということです。
国内における測定でも、プレゼンティーズムによる生産性の低下は無視できない規模であることがわかっています。東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニットが開発した「東大1項目版」という簡易な指標を用いた調査では、日本人の平均的なプレゼンティーズム測定値は84.9%とされています。健康な状態を100%としたとき、平均でおよそ15%の生産性が発揮できていない計算になります。
見えないコストに向き合う三つの設計
プレゼンティーズムは目に見えにくいからこそ、放置されやすい課題です。人事担当者・経営層・管理職が組織として向き合うために、次の三つの設計を提案します。
設計①:感覚ではなく指標で「測る」仕組みをつくる
プレゼンティーズムは自己申告に基づく主観的な指標であるため、正確に把握するには継続的な調査が欠かせません。東大1項目版のように1問で回答できる簡易な指標を、ストレスチェックや従業員サーベイのタイミングに合わせて年1〜2回組み込むことで、大きな追加負担なく定点観測を始められます。重要なのは数値の高低そのものよりも、部署別・時系列での変化を継続して追うことです。
実施チェック:プレゼンティーズムを測定する質問項目を、既存のストレスチェックか従業員サーベイに追加できているか。
設計②:原因を「個人の甘え」ではなく構造で特定する
生産性の低下が見えてくると、「本人の意識の問題」で片づけたくなりますが、それでは改善が進みません。プレゼンティーズムの背景には、睡眠不足、メンタルヘルスの不調、腰痛や頭痛といった慢性的な身体症状、長時間労働、職場の人間関係など、複数の要因が重なっていることがほとんどです。ストレスチェックの集団分析結果や勤怠データと組み合わせることで、個人の問題ではなく職場や制度の構造の問題として原因を特定できます。
実施チェック:プレゼンティーズムのデータを、ストレスチェックの集団分析や勤怠データと突き合わせて要因を分解できているか。
設計③:管理職を体調変化に最初に気づける存在に育てる
プレゼンティーズムの兆候に最初に気づけるのは、日々顔を合わせる現場の管理職です。しかし、多くの管理職は体調の変化にどう気づき、どう声をかけ、誰につなげばよいかを体系的に学ぶ機会を持っていません。既存の1on1や日常のコミュニケーションの場を活用しながら、体調変化への気づき方、話の聴き方、産業医や産業保健スタッフ、外部の相談窓口へのつなぎ方を、管理職研修に組み込むことが有効です。管理職個人の裁量に任せるのではなく、組織としての対応手順を用意することが欠かせません。
実施チェック:管理職研修の中に、部下の体調変化への気づき方と、産業保健スタッフ等への具体的なつなぎ方が含まれているか。
まとめ
健康経営優良法人の認定数が過去最多を更新する一方で、健康関連コストの大部分を占めるプレゼンティーズムは、多くの企業でまだ十分に可視化されていません。測る仕組みをつくり、原因を構造で特定し、管理職を体調変化に気づける存在として育てる、この三つの設計を積み重ねることが、見えない生産性損失に向き合う具体的な一歩になります。
自社の状況を踏まえた研修設計や管理職育成についてご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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