こんにちは。WONDERFUL GROWTH編集部です。
約8割の企業が「人材育成に問題あり」。最大の理由は仕組みの欠如
厚生労働省『令和6年度 能力開発基本調査』によると、能力開発や人材育成に関して「何らかの問題がある」と回答した事業所は 79.9% にのぼります。約8割の現場が、人を育てることに課題を感じているのです。
問題の内訳を見ると、最も多いのが「指導する人材が不足している」で 59.5%、次いで「人材を育成しても辞めてしまう」が54.7%、「人材育成を行う時間がない」が47.4%と続きます。
ここで注目したいのは、これらがいずれも社員一人ひとりのやる気や素質の問題ではなく、育成を支える「仕組み」の問題 だという点です。指導役が足りない、育てても辞める、時間が取れない——こうした課題は、特定の優秀な先輩社員の善意や経験に依存した、その場限りの育成では解決できません。
実際、計画的なOJTを実施した事業所は正社員でも61.1%、正社員以外では27.1%にとどまります(同調査)。教育訓練に費用を支出した企業も54.9%です。裏を返せば、4割前後の現場では育成が個人の裁量任せになっているということです。この属人化を解消し、誰が担当しても一定の質で人が育つ状態をつくる鍵が、本記事のテーマである「人材育成体系」です。
人材育成体系とは何か
人材育成体系とは、企業の経営戦略にもとづいて「誰に・何を・いつ・どの手法で」育成するのかを、階層と職能の軸で整理し、一枚の図として可視化したものです。「教育体系」「研修体系」と呼ばれることもあります。
重要なのは、これが単なる研修メニューの一覧ではないという点です。「経営戦略 → 求める人材像 → 必要なスキル → 学習手法」という逆算のつながりがあって初めて、体系は機能します。
「研修カタログ」との違い
よくある失敗が、外部研修会社のメニューを階層ごとに並べただけの「研修カタログ」をつくってしまうことです。これは一見体系的に見えますが、自社の戦略や課題と結びついていないため、受講しても現場が変わりません。人材育成体系は、自社の目的から設計される点でカタログとは根本的に異なります。
なぜ今、人材育成体系の整備が急がれるのか
人材育成体系の必要性は、近年とくに高まっています。背景には、3つの構造的な変化があります。
1. 育成の属人化が限界を迎えている
前述のとおり、人材育成上の最大の課題は「指導する人材の不足」です。ベテラン社員の退職や管理職のプレイヤー化が進むなか、特定の人に育成を任せきりにする方法は、その人がいなくなった瞬間に機能しなくなります。暗黙知を組織の資産として継承するには、誰が担当しても再現できる仕組みが欠かせません。
2. 求められるスキルが急速に変化している
世界経済フォーラム(WEF)の『Future of Jobs Report 2025』は、2030年までに労働者に求められるスキルの 約39% が変化すると予測しています。生成AIやデジタル化の進展により、一度身につけた知識が古くなる速度は増しています。単発の研修では変化に追いつけず、継続的に内容を更新できる「体系」として育成を運用する必要があります。
3. 人的資本開示で「人材育成方針」が問われる時代になった
上場企業を中心に、人的資本に関する情報開示が求められるようになりました。内閣官房などがまとめた『人的資本可視化指針』では、人材育成の方針や施策を投資家に説明することが想定されています。経済産業省『人材版伊藤レポート2.0』も、経営戦略と人材戦略を連動させることの重要性を提言しています。育成を体系として説明できることは、もはや経営の責任の一部になっているのです。
観点 | 場当たり的な育成 | 体系的な育成 |
|---|---|---|
起点 | 現場の要望・流行の研修 | 経営戦略と求める人材像 |
対象 | 手の挙がった人・新人中心 | 全階層を計画的に |
手法 | 単発のOFF-JT中心 | OJT・OFF-JT・自己啓発の組み合わせ |
評価 | 受講したかどうか | 行動変容と成果で測定 |
継承 | 担当者の経験に依存 | 仕組みとして再現・更新 |
人材育成体系を支える2つの軸
体系図は、「階層軸(タテ)」と「領域軸(ヨコ)」のマトリクスで描くと整理しやすくなります。
階層軸(タテ):期待役割で区切る
新入社員、若手、中堅、新任管理職、上級管理職、経営層——というように、職位や経験年数で階層を分けます。階層が上がるほど期待される役割は「自分が成果を出す」から「人と組織で成果を出す」へ移るため、必要な能力も変わります。
領域軸(ヨコ):身につける能力で区切る
能力の領域は、(1)全社共通(理念・コンプライアンス・ビジネス基礎)、(2)職能別の専門スキル(営業・開発・管理など)、(3)マネジメント・リーダーシップ、(4)自己啓発・キャリア形成、の4つに大別すると過不足がありません。この2軸を掛け合わせることで、「どの階層に、どの能力を、どう育てるか」が一目で分かる体系図になります。
階層 | 重点育成テーマ | 主な学習手法 |
|---|---|---|
新入社員 | 社会人基礎・自社理解・業務の型 | 導入研修+OJT |
若手(2〜5年) | 専門スキルの自立・後輩指導の基礎 | OJT+専門研修 |
中堅 | 課題解決・チームへの影響力 | プロジェクト経験+選抜研修 |
新任管理職 | マネジメント・労務・評価 | 階層別研修+1on1実践 |
経営層・幹部候補 | 経営視点・後継者育成 | 選抜研修・サクセッション |
人材育成体系の作り方|現場で機能させる5つのステップ
ここからは、人材育成体系を実際に組み立てる手順を5つのステップで解説します。各ステップに「実施チェック」を添えましたので、自社の進捗確認にご活用ください。
ステップ1 経営戦略から「求める人材像」を定義する
出発点は研修ではなく、経営戦略です。3〜5年後に会社がどこを目指すのかを確認し、その実現に必要な人材像を階層ごとに言語化します。「中堅社員には、部門をまたいで課題を解決できる力を求める」というように、期待役割を具体的な行動レベルで描くことがポイントです。
実施チェック
- ☐ 経営計画から3〜5年後に必要な人材像を文章にした
- ☐ 各階層の期待役割を一文で定義した
ステップ2 階層×領域でスキルを棚卸しし、ギャップを可視化する
求める人材像が定まったら、必要なスキルを階層×領域のマトリクス(スキルマップ)に書き出します。そのうえで、現状の社員の能力と照らし合わせ、どこにギャップがあるのかを可視化します。上司評価やアンケートを併用すると、優先的に埋めるべき領域が見えてきます。
実施チェック
- ☐ 階層×領域のスキルマップを作成した
- ☐ 現状とのギャップを部署単位で把握した
ステップ3 学習手法を「70:20:10」で設計する
人は研修だけで育つわけではありません。人材育成の経験則として知られる「70:20:10モデル」では、人の成長の 7割が仕事の経験、2割が他者からの薫陶(上司や先輩の助言)、1割が研修 によるとされます。ギャップを埋める手段を、OJT(経験)・OFF-JT(研修)・自己啓発の役割分担で設計しましょう。研修は「現場で再現する」ことを前提に、OJTと接続させることが重要です。
実施チェック
- ☐ 各スキルの習得手段をOJT・OFF-JT・自己啓発に振り分けた
- ☐ 研修後に現場で実践する仕組みを用意した
ステップ4 体系図に落とし込み、優先順位とロードマップを決める
ここまでの内容を一枚の体系図にまとめます。ただし、すべての施策を同時に始めるのは現実的ではありません。経営課題への影響度と緊急度から優先順位をつけ、年度ごとの導入ロードマップに落とし込みます。費用面では、厚生労働省の 人材開発支援助成金 など公的支援の活用も検討するとよいでしょう。
実施チェック
- ☐ 体系図を一枚に可視化した
- ☐ 優先順位と年度計画を決めた
- ☐ 活用できる助成金を確認した
ステップ5 効果測定と更新の仕組みを組み込む
体系は「作って終わり」では形骸化します。研修の評価で広く使われる カークパトリックの4段階モデル(反応・学習・行動・成果)を参考に、受講者の満足度だけでなく、現場での行動変容や業績への貢献までを測りましょう。そして、少なくとも年1回は経営戦略との整合性を見直し、体系を更新します。
実施チェック
- ☐ 行動変容・成果を測る指標を決めた
- ☐ 年1回の見直しサイクルを設定した
育成体系づくりでつまずく3つの失敗パターンと回避策
失敗パターン | 起きること | 回避策 |
|---|---|---|
研修カタログ化 | メニューは揃うが現場が変わらない | 経営戦略と求める人材像から逆算する |
現場任せのOJT | 指導品質が人によってばらつく | OJTの到達目標とチェック項目を共有する |
作って終わり | 数年で実態と乖離し形骸化する | 年1回の見直しと効果測定を組み込む |
90日で人材育成体系をつくる導入ロードマップ
期間 | 主な取り組み | ゴール |
|---|---|---|
1〜30日 | 経営戦略の確認・求める人材像の定義 | 育成の方針が言語化されている |
31〜60日 | スキルマップ作成・ギャップの可視化 | 優先的に育てる領域が定まる |
61〜90日 | 体系図化・手法設計・効果測定の設計 | 運用できる体系図が完成する |
まとめ
人材育成に課題を感じる企業は約8割にのぼり、その最大の理由は「指導する人材の不足」、すなわち育成が特定の個人に依存している状態です。人材育成体系とは、この属人化から脱却し、経営戦略から逆算して「誰に・何を・どう育てるか」を仕組みとして設計する取り組みにほかなりません。
本記事で紹介した5つのステップ——求める人材像の定義、スキルの棚卸し、70:20:10での手法設計、体系図化、効果測定と更新——を踏むことで、属人化に頼らず、変化にも開示にも耐えうる育成の土台を築くことができます。まずは自社の経営戦略と求める人材像を言葉にするところから始めてみてください。
人材育成体系の設計・研修導入はWONDERFUL GROWTHにご相談ください
WONDERFUL GROWTHでは、貴社の経営戦略にもとづく人材育成体系の設計から、階層別・職能別研修の実装、効果測定までを一貫してご支援しています。「何から手をつければよいか分からない」という段階からのご相談も歓迎しております。サービス資料のご請求・お問い合わせは こちら からお気軽にどうぞ。
引用・参考文献
- 厚生労働省『令和6年度 能力開発基本調査』(2025年公表)
- 経済産業省『人材版伊藤レポート2.0』(2022年5月)
- 内閣官房ほか『人的資本可視化指針』
- World Economic Forum『Future of Jobs Report 2025』
- 厚生労働省『人材開発支援助成金』(令和8年度/2026年度版)
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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