カイシャの育成論
──現在、人材育成においてどのような取り組みをされているのか教えてください。
渡邊様:毎日実施している1時間の朝礼と、月に1回の外部講師を招いた全体研修が主軸となっています。
中でも当社ならではの特徴的な取り組みが、「成長シート」を用いた評価制度です。
一般的な企業であれば、業務スキルの向上や売上目標の達成度合いなどを評価基準の一番上に置くと思います。
しかし当社では、「人としてどれだけ成長したか」という在り方の部分を評価の中心に据えています。
技術やスキルよりも、本当に人としてのあり方がどれくらい成長したのかを測る独自の指標を設けているのです。
──スキルではなく、人としての在り方を評価するとは、具体的にどのような内容なのでしょうか。
渡邊様:分かりやすく言えば、私たちが小学生の頃に習ったような道徳の基本です。
例えば、人と会ったら大きな声で挨拶をすることや、常に笑顔でいることなどですね。
東京という大都市で、さらにAIやデジタルツールが発達していく中で、こうした基本がどうしても疎かになっていると感じていました。
隣の席にいるのにパソコンのチャットツールで会話を済ませてしまうなど、コミュニケーションツールが便利になる一方で、人間関係が希薄になり、いびつになっているように思えたのです。
だからこそ、当社の中では部活動のような温かい関係性を保ちたいと考え、あえて道徳で習うようなアナログなコミュニケーションを大切にしています。

──その「成長シート」はどのように評価され、社員の成長や処遇に繋がっているのでしょうか。
渡邊様:半年に一度、全員が集まる「成長会議」を実施しています。
成長シートには細かい評価項目があり、自己採点と上司による採点をすり合わせて点数を決定します。
そして、この点数がそのまま賞与に反映される仕組みになっています。
例えば「挨拶」という項目一つをとっても、ただ入室時に言葉を発すれば良いわけではありません。
事務室の入り口で一度立ち止まり、全員を見渡して「おはようございます、今日も一日よろしくお願いします」と声を響かせる。
さらに、先に着席している社員は、仕事の手を止めて必ず振り返り、相手の顔を見て挨拶を返す。
挨拶は一方的にするものではなく、交わすものです。
この双方向のやり取りができて初めて「挨拶ができた」と評価されます。
──非常に厳密な基準が設けられているのですね。
社員の皆様はどのように受け止めているのでしょうか。
渡邊様:最初の頃は苦手な社員もおり、1点や2点しかつかないこともありました。
しかし、成長会議を通じて「自分ではできているつもりだったけれど、響き渡るような声で挨拶をして5点をもらっているあの社員と比べると、自分はまだ3点止まりだな」と気づくことができます。
また、上司も部下をよく観察しており、「あの時、誰かが落としたペットボトルを拾って捨てていたね」「自分のコップを洗うついでに、他の人のコップも一緒に洗ってくれていたね」と、本人すら忘れているような小さな利他的行動をきちんと評価して伝えます。
このように、できる・できないではなく、人として成長していくプロセスを全員で称賛し合うことで、確実に人間力が高まっていきます。

──毎日の朝礼に1時間を使うことも非常に珍しい取り組みですが、どのようなことを行っているのでしょうか。
渡邊様:毎朝テーマを変えて、部署を超えた様々なコミュニケーションをとっています。
基本的には雑談に近いのですが、一番盛り上がるのは「褒め言葉」をテーマにした時です。
同じ部署のメンバーはもちろん、他部署の人の素晴らしい行動を報告し合います。
自分自身が褒められるのも嬉しいですが、自分の身近な仲間が褒められるのは家族が褒められたようで誰でも嬉しいものです。
この1時間の朝礼を通じて、お互いの顔と名前を一致させ、相手を深く知ることが、日々の円滑な業務や連携に直結しているのです。
最初は「早く業務に入らせてほしい」という戸惑いの声もありましたが、一度きりのイベントではなく継続してやり続けた結果、今のような非常に雰囲気の良い組織になりました。

会社の理念や考え方
──貴社が組織運営において、最も大切にしている理念や価値観について教えてください。
渡邊様:当社は、「人が育てば、事業は自然に育つ」という考え方を軸に、人材育成を会社運営の中心に据えています。
人を信頼し、育て、共通の目的を持つ組織こそが持続的な成長の原動力であると考えています。
常に「いい会社にしたい」という思いが根本にあり、会社というのはあくまでも箱で、大切なのは中身、つまりそこにいる「人」です。
では「いい人」とは何かと考え、自分の仕事だけをこなすのではなく、困っている人を助ける「利他の心」を持った人のことだと定義しました。
そうした利他の心を持った人が集まれば、自然と良い会社になり、結果的に業績も上がっていくと確信しています。
──利他の心や、人としての在り方を大切にするようになった背景には、どのような思いがあるのでしょうか。
渡邊様:1日のうち、睡眠時間を除けば仕事をしている時間が人生の大部分を占めます。
プライベートを充実させるために仕事を我慢してやるというのは、おかしな話です。
人生の中で最も長い時間を過ごす仲間との仕事が楽しくなければ、人生が充実しているとは言えません。
だからこそ、仕事を与えられて受け身でこなすのではなく、自分たちで選び、能動的に取り組むことが重要です。
その意識を変えるためにも、人間関係の質を高めることが不可欠なのです。
私たちは、指示で動く組織ではなく、自ら考え、選び、説明できる組織を目指しています。
──「美しい生き方」や「粋(いき)」という言葉も大切にされていると伺いました。
渡邊様:はい。
「正しさ」というものは、立つ立場によって変わってしまいます。
戦争が起こるのも、双方が自分の正しさを主張し合うからです。
だからこそ、当社では「正しい生き方」ではなく「美しい生き方」や「粋な生き方」を推奨しています。
自分が落としたゴミでなくても拾う。
自分が降りる駅でなくても、お年寄りにさりげなく席を譲って別の車両に移動する。
自分が正しいと主張してギスギスするのではなく、人として美しく、粋な行動をとれる人間になってほしいという願いを込めています。

会社の歴史・転換点
──現在のような「人としての在り方」を重視する組織体制ができるまでには、どのような変遷があったのでしょうか。
渡邊様:実は、このような理念を意識し始めたのは2010年頃からです。
それまでは日々の売上を上げることに必死で、理念などを考える余裕は全くありませんでした。
以前、海外の方から「この会社の理念は何ですか」と聞かれた際に、何も答えられなかった時期があったほどです。
そこから試行錯誤を繰り返し、徐々に組織づくりに本腰を入れるようになりました。
事業が広がるにつれてスタッフの専門性は高まっていく一方で、価値観や判断基準に少しずつ差が生まれていることに気づいたのも大きなきっかけです。
美容や医療の仕事は信頼が重要であるにもかかわらず、個人の力量に依存している状態では持続的な成長が難しいと感じたのです。
──そこからどのようにして、現在の確固たる組織風土を作り上げていったのでしょうか。
渡邊様:大きな転機となったのは、ベンチマークとして「いい会社」と言われる企業を見学して回ったことです。
そこで気づいたのは、細かい事業内容は違っても、いい会社には必ず「ありがとう」という言葉が飛び交い、社員同士の仲が良いという共通点があることでした。
元々外部の研修会社が推奨していた「成長シート」という仕組みがあったのですが、それは売上目標や重要業務の達成度を一番上に置くものでした。
しかし私は、当社にとって一番大切なのは「人としてのあり方」だと考え、その部分だけを抜粋し、独自にアレンジして現在の制度を作り上げました。

──制度を取り入れた後、会社にはどのような変化がありましたか。
渡邊様:人が良くなるにつれて、業績も顕著に上がっていきました。
最初は数十坪の宮益坂のオフィスから始まりましたが、5年ごとに会社が大きくなり、道玄坂の広いオフィスへ、そして現在の新しいオフィスへと移転を重ねることができました。
社員定着率もおおよそ80%前後を維持し、社員紹介による入社比率も約50%に達しています。
組織を作ること、そして人を育てることの重要性を身をもって実感しています。

活躍する社員について
──「成長シート」で高い評価を得るような、貴社で活躍される社員にはどのような共通点がありますか。
渡邊様:共通して言えるのは、サボる人が本当に誰一人としていないことです。
私が海外出張などで会社を不在にしていても、社員一人ひとりが自分の目的ややるべきことを理解し、能動的に動いています。
これは一部の優秀な社員だけではなく、全員が高い意識を持ってくれています。
ベースとなる意識が非常に高い組織だと自負しています。
──現場から見て、社員の方々の関係性や働き方はどのように映っていますか。
渡邊様:各部署にはリーダーがおり、部署を超えたコミュニケーションの機会が非常に多いです。
仕事の話はもちろんですが、すれ違った際のちょっとした雑談などを通じて、お互いの距離がとても近いと感じます。
この仲の良さが、日々の業務における助け合いに繋がっています。
例えばモニターを見て人手が足りない部署があれば、自然と「何か手伝うことはありますか」と声をかけ合います。
自分の目の前にある仕事だけを自分の仕事とするのではなく、チーム全体で成し遂げていくという意識が根付いているのです。
──社員の皆様の「ありがとう」を伝える文化も特徴的ですね。
渡邊様:はい。
当社では社内ツールを活用して、感謝の気持ちを可視化しています。
他の人がどのような小さなことで「ありがとう」を伝えているのかを知ることで、「こんなことでも感謝していいんだ」という気づきが生まれます。
何かをやってもらって「当たり前」という感覚がなくなり、全てが感謝に変わっていきます。
毎朝エレベーターホールの警備員さんに対しても、当社社員だけは全員が立ち止まって元気に挨拶をします。
それが他の企業の方にも伝染して、社会全体が平和になればいいなと本気で思っています。

会社の事業について
──貴社の事業内容と、それが組織や育成にどう影響しているか教えてください。
渡邊様:当社は美容医療と教育の両輪で事業を展開し、クリニックの運営をはじめとする医療関連の事業を行っています。
本来、医療という領域は医師や医療従事者しか関わることができない尊い仕事です。
多くの場合、医療は「病気になった人を治す」ことにスポットが当たります。
しかし私たちは、医師ではありませんが「病気にならないための医療」や「美しく若々しく生きるためのサポート」を提供しています。
──医療従事者ではない立場から医療に関わることに、独自のやりがいがあるのですね。
渡邊様:日本の医師が知らなかった「金の糸」という美容技術を私が海外から持ち帰り、普及させてきた歴史があります。
医師でなければできないこともありますが、私たちだからこそ提供できる新しい医療の形があります。
社員全員が、自分たちの仕事が人々の幸せに直結しているという誇りと自信を持って日々の業務に取り組んでいます。
知識や技術以上に信頼が重要だからこそ、相手の立場を理解し、対話し、信頼関係を築ける「人間力」を持った人材を育てることを大切にしているのです。

未来への取り組み・今後の展望
──最後に、今後の展望やこれから挑戦したいことについて教えてください。
渡邊様:事業面では、私たちが提供する「病気にならないための医療」という新しい世界をさらに広げていきたいと考えています。
これまで少しずつ積み上げてきた実績があり、私に続く次世代の社員たちがその可能性をさらに大きく開花させてくれると信じています。
そこに非常に大きなワクワクを感じています。
また、スキルや知識の教育に加えて、「考える力」「伝える力」「倫理観」といった部分も体系的に育てていきたいと考えています。
──組織面や社員に対しては、どのような未来を期待されていますか。
渡邊様:社員には常に「チャレンジし続けてほしい」と伝えています。
成功であれ失敗であれ、挑戦することにこそ価値があり、そこからしか人生の幅は広がりません。
波風の立たない無難な人生よりも、山あり谷ありのドラマチックな人生の方が絶対に面白いです。
社内にとどまらず提携先やパートナーとも学びを共有し、関わる人すべてが成長できる環境を広げていきたいと思います。
そして、もし当社を卒業する社員がいたとしても、次の職場で「どうしてそんなに挨拶ができて、笑顔で、利他の心に溢れているの?」と驚かれるような人間を育てたいと思っています。
最終的には、「ここで働くと、人としても成長できる」そう言ってもらえる会社であり続けることが、私たちの理想です。

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