カイシャの育成論
──最初に、現在の人材育成について、どのような取り組みをされているのか教えてください。
水嶋様:育成というと大掛かりに聞こえるかもしれませんが、当社の場合は少し違います。採用のところからお話しすると、樫部はもうすぐ2年になりますが、以前は私自身が採用にも作業指導にも直接関わっていました。今は担当のメンバーが主体となって採用を進め、在宅ワーカー同士が自分の苦労した経験や良かった経験を共有し合う場をつくっています。その環境に向いていそうな人を見極めて迎え入れる、という流れに変わってきました。入社してからも、決まった研修カリキュラムをこなすというより、実務をこなしながら学んでいくスタイルです。一定水準の技術がなければサービスを提供できない、という考え方もあるかもしれません。しかし当社は、何も知らない人が実務を担うこと自体に価値を置いています。知らないからこそ気づけること、未経験だからこそつまずくことは、そのままマニュアルとして磨き上げられるケーススタディになるからです。情報共有をしっかりと、そしてオープンに行うことを前提にしているからこそ、特別な育成の手間をかけずに済んでいるのだと思います。採用も育成も担当に任せている今の状態を指して、私は何もやっていないと言われることがあるかもしれません。それも含めて、任せられる体制ができてきたということだと捉えています。
──実務を通じて学んでいくスタイルなのですね。現場で戸惑う場面もありそうですが、どのように支えているのでしょうか。
樫部様:当社では在宅ワーカーにある程度お任せいただいている分、採用の段階から、一緒に働きやすい方かどうかを私たちも面接で確認させていただいています。現場は実践を通じて学べることが多く、マニュアルや社長の考え方をコンセプトとしてしっかり共有した上で、業務を担いながら身につけていただく形です。未経験だからこそ活躍できる現場になっていますし、わからないことを前提にできることが、私たちにとって一番の武器になっています。水嶋が実際にお客様へコンサルティングを行う様子を、動画で見られる仕組みもあるんです。在宅ワーカー同士も、定期的なミーティングでお客様をサポートした内容を共有し合っているので、孤立せずに学べる環境だと感じています。

──貴社は公共工事という、専門性が高いとされる領域でコンサルティングを手がけていらっしゃいます。そこであえて未経験者を採用するというのは、思い切った判断のようにも感じます。
水嶋様:公共工事の入札とお聞きになると、業界に精通した人でなければ扱えない、経験豊富な人間でなければ務まらない、と思われがちです。しかし実際にそう考えてしまうと、売上のつくり方に対する視野が驚くほど狭くなります。経験があることのメリットは当然ありますが、デメリットも同じくらい大きいのではないか。私はそう考えています。経験がまったくない人と、経験が豊富な人をパフォーマンスとして比べたとき、一定の期間を経れば、経験のない人のほうが成果を出すケースは実際にあります。専門性が高いとされる業界だからこそ、先入観や固定観念の強さを痛感させられるものです。持っていないことのデメリットではなく、知らないことの価値をしっかり見出すことによって、新しいビジネスモデルを提案できる。この考え方自体を、皆で共有できているのではないかと感じています。
──実際に、この育成の考え方は貴社のクライアント様にもよい影響を与えていそうですね。
水嶋様:当社のクライアントには建設業のお客様が多く、在宅ワーカーを起用するという発想自体をこれまで持っていなかった法人がほとんどです。特に建設業は、近隣で採用する、先輩について何年もかけて一人前になる、という感覚が根強く残っている業界です。ただ、自分がいる市の中だけで探すのと、全国から探せるのとでは、出会える人材の質もスピードも変わってきます。在宅というオンラインの採用を前提にしたほうが、優秀な人にも早く出会えるはずだと、私からもお客様にお伝えしてきました。現在、当社のクライアントは240社ほどで、過去には400社から500社とお付き合いさせていただいた実績があります。これまでに20名以上の在宅ワーカーを育成してきましたが、この規模でも十分に成果を実感していただけていると考えています。
会社の理念や考え方
──こうした育成や採用の根底にある、貴社の理念について教えてください。
水嶋様:経営者として強く意識しているのは、人と同じことをしていては価値をつくれない、ということです。少し前のコロナ禍を思い出していただくとわかりやすいのですが、皆が一斉にマスクをつけ、外出すれば白い目で見られるような、同調圧力の強い時期がありました。みんなと同じことをすればよい、という発想は、経営という観点からすると決して褒められるものではないと思います。高度経済成長期のように日本全体が強かった時代であれば、それでもよかったのかもしれません。しかし今は長く続く右肩下がりの時代です。自分の置かれている状況を客観的に見れば、人と違うことをやらなければならないのは明らかだと思います。
──「人と違うことをする」という考え方が、未経験者の採用にもつながっているのですね。
水嶋様:経営者の多くは、こうした理屈だけでは納得しません。中小の建設会社の経営者は、分厚い本を読んで勉強するタイプの方ばかりではないので、実際に体感していただくことを大切にしています。未経験の在宅ワーカーを採用することは、コストの面でも決して高くありませんし、知識がない分、誠実に一生懸命取り組んでくれる方が多いのも事実です。そうして実際に売上が立ち、利益が生まれるところまで体験していただくと、これまでの経験や専門知識に対する固定観念がすべてではないと、経営者ご自身が気づいていかれます。理屈で伝えるよりも、その体感こそが、当社の理念を一番説得力のある形で伝えてくれていると思います。
会社の歴史・転換点
──水嶋様は以前、大手損害保険会社で全国トップクラスの成績を収められていたそうですね。そこから今の事業に至るまでには、大きな転機があったと伺いました。
水嶋様:おっしゃる通り、保険の営業をしていました。ただ、どれだけ数字を残しても、お客様からは「保険屋」と一括りに呼ばれ、正直、軽く見られることも少なくありませんでした。なぜそう見られてしまうのか。答えは単純で、保険を扱う人間があまりに多いからです。日本には保険を扱う営業パーソンが何十万人、下手をすれば100万人以上いるとも言われています。その中で「保険屋でも優秀だ」「保険屋でも稼いでいる」と主張したところで、しょせん同じ保険という土俵の中での戦いに変わりはありません。人と同じ市場で戦っている限り、自分にしかない価値はつくれないと痛感したことが、独立を考えるきっかけになりました。
──そこから、公共工事という今の領域にたどり着かれたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
水嶋様:ある地方の建設会社様から、年商と同じ規模の公共工事を受注したいというご相談をいただいたことがきっかけです。当時の私に建設業の専門知識はありませんでしたが、業界の外にいたからこそ、中小企業は本当に公共工事に参入できないのかと、素朴な疑問を持って調べ始めることができました。そこから、日本にほぼ私しかいないというポジションを探すようになったのです。前例のない挑戦は簡単ではありません。類書がなければ本すら出せませんし、比較する基準がないので市場そのものが存在しないと、編集者に言われたこともあります。それでも、一度そのポジションを確立してしまえば、お客様に比較されるのではなく、自分たちで市場の価値や基準を定義できるようになる。それは何より大きな強みになると考えています。
活躍する社員について
──貴社で活躍されている方々には、どのような共通点があるのでしょうか。実際に在宅ワーカーとして働かれている樫部様のご意見も伺いたいです。
樫部様:私自身が感じているのは、しっかりと情報共有ができる方が活躍されているということです。わからないことをわからないと、きちんと周囲に伝えられるかどうかが大きいと思います。加えて、この先どうなるだろうと深く考えすぎず、まずはやってみる姿勢も大切です。困ったことがあれば、そのときにしっかり共有できれば十分だと考えています。普段はZoomやチャットワークでのやり取りが中心ですが、それだけで解決しづらい内容は、直接電話ですぐに解決するようにしているんです。一方で、在宅ワーカーには女性が多いこともあり、慣れ合いが強く出すぎると仕事に影響してしまう場面もあります。ある程度の線引きをしながら、雑談も交えつつ進められる方が、今、活躍されていると感じます。

──在宅というかたちだからこそ、意識されている距離感なのですね。水嶋様から見て、活躍される方々に共通する背景はありますか。
水嶋様:当社の在宅ワーカーは、ほとんどが未経験からのスタートです。だからこそ、できなくて申し訳ないという引け目を感じる必要がありません。ゼロから始めることを前提に迎え入れているので、一つできるようになれば、それ自体がありがたいことなのです。そうして身につけたことを後輩に伝え、マニュアルとして残してくれる方が、次々と現れています。お客様である建設会社の担当者様も、実際に成果を残してくれることに、心から感謝してくださっていると感じます。働き方としては全員が在宅勤務で、出勤の必要がありません。お子さんが小さい、ご家族の介護がある、体調がすぐれない、そうした事情があれば、無理をせずプライベートを優先していただいています。業務は日頃からしっかり共有されているので、誰か一人の事情で滞ってしまうことは基本的にありません。

会社の事業について
──あらためて、貴社の事業内容について教えてください。
水嶋様:当社は、中小の建設会社様に特化した経営コンサルティングを行っています。2017年の創業以来、公共工事への参入や、その後の継続的な受注を支援することに特化してきました。2024年には、当社がご支援したお客様の受注総額が約40億円、入札件数は1,155件、そのうち291件で落札に至りました。個別相談だけでなく、全国のお客様とオンラインでつながる体制を整えてきたことも、事業を広げるうえで欠かせない土台になっています。
──「日本でおそらく唯一」というポジションを築かれた今、具体的にはどのような形でクライアント企業を支援されているのでしょうか。
水嶋様:個別のコンサルティングでは、私自身が直接、公共工事への参入から、その後の継続的な受注戦略までを伴走します。加えて、これまでのノウハウを蓄積したクローズドな勉強会形式のコミュニティも設けました。エリアや人数を限定しているため、参加企業同士が競合しない形での情報共有ができています。書籍や教材の出版、セミナー・講演といった形でも、公共工事に関する知見を広く発信中です。建設業という、専門性と経験がものを言うとされてきた業界において、経験に頼らない再現性のあるノウハウを体系化してきたことが、当社の一番の強みだと考えています。公共工事という専門領域だからこそ、経験のない人材を育てるという当社の姿勢そのものが、他にはない差別化にもなっていると感じています。
未来への取り組み・今後の展望
──最後に、今後の展望についてお聞かせください。
水嶋様:お客様の会社に新しい人材を入れることは、価値観そのものを新しくすることにもつながります。当社としては、そうした価値提供をこれまで以上に形にしていきたいと考えています。今、実際にテストしているのが、育成した在宅ワーカーを無償で数社にお試しいただく取り組みです。3社から4社のお客様に、半年ほどの期間、無償でご活用いただいています。その間に、実際に売上を伸ばすというファクトをしっかりとつくることが目的です。無償の期間が終わる頃には、対価をお支払いしてでも続けてほしいと、お客様の方から言っていただけるようになります。そうなれば、交渉の主導権はこちらのものです。そこで得られた数字は、そのまま他のお客様への提案材料になります。理屈で語るのではなく、事実とデータをもって価値を伝えられるようになるということです。こうした取り組みを、1人、2人ではなく、100人という規模に広げていきたいと考えています。建設業に限らず、経験や資格がなければ活躍できないと思われてきた領域は、まだ他にもあるはずです。そうした領域に対しても、知らないからこそ生み出せる価値を、これからも社会に示していきたいと考えています。



