✦ Interview · No. 0095

建設・不動産業界

浜島防災システム株式会社

代表取締役 浜島 豊博 様

2026/10/16

◈ Editor’s Note

内定式を終えたばかりの新卒に、社長自らが丸一日をかけて「儲けの仕組み」を教え込む。この指導は、10月の内定式から入社直前の3月まで、毎月欠かさず重ねられてきた。かつて「潰れそうな会社」と社長自身が振り返るほど苦しかった一社を、東証プライム上場の同業他社をも上回る生産性へと導いている。売上ではなく粗利を軸に据えた独自の経営教育により、14年で生産性を3倍以上に伸ばした浜島防災システム株式会社。愛知県豊川市で60年以上、地域の安心を支え続けてきた企業が実践する、育成の思想に迫る──

カイシャの育成論

──最初に、現在人材育成についてどのような取り組みをされているのか、全体像を教えてください。

浜島様:当社が最も力を入れているのは、新卒社員に入社前から「儲けの仕組み」を教えることです。多くの中小企業は、ビジネスマナーや業務知識は教えます。しかし、会社がどのように利益を生み出しているかという、最も肝心な部分は教えていません。当社ではこの「儲けの仕組み」を、内定式が終わった10月から入社直前の3月まで、毎月1回、丸一日をかけて、私自身が直接指導しています。半年間で合計6回、内定者を対象に行うため、入社する前から会社の考え方を深く共有できます。

新卒社員向けの研修で、社長がホワイトボードの前で講義をする様子

──入社する前から、社長ご自身が直接指導されるのですね。半年間で6回というのは、かなり本格的な内容だと感じます。

浜島様:組織図を持つ会社は多くても、「儲け図」と呼べるものを持つ会社はほとんどありません。だからこそ、何をがんばれば会社の利益につながるのかを、最初に明確にすることを大切にしています。数字と聞くと身構えてしまう新卒も多いため、数式ではなく面積グラフを使い、視覚的に説明する工夫をしています。売上から変動費、つまり仕入れ値などを差し引いたものが粗利で、そこから固定費を差し引いた残りが利益になるという構造を、まず丁寧に伝えます。自分の給料を上げたいのであれば、売上ではなく粗利を増やす必要があるという原則を、入社前の段階でしっかり理解してもらうようにしています。

──「粗利を増やす」という考え方について、もう少し具体的に教えていただけますか。

浜島様:原価が変わらないまま2割値上げをすると、利益は5倍に跳ね上がるという試算を、実際に見せながら説明しています。逆に値引きをすれば、値引きした金額がそっくりそのまま粗利から失われることになります。この仕組みを理解してもらうことで、「値引きは罪悪」という考え方を、新卒のうちから徹底しています。加えて、粗利を伸ばすためには、新規顧客・流出顧客・購買頻度・買上げ点数・客単価という5つの要素を切り分けて考えることが有効です。バケツの穴をふさぐように、まず流出顧客を減らすことを最優先に置くよう教えています。マクドナルドの朝マックや「ポテトはいかがですか」という提案も、来店回数や買上げ点数を増やす工夫の実例として、社員に紹介しています。

──自分自身にかかっているコストについても教えているとお聞きしましたが、これも印象的な内容ですね。

浜島様:新卒の総合職を1人雇用すると、車両費やガソリン代、保険料、携帯電話、パソコンなどを含め、年間およそ1300万円のコストがかかります。月給30万円に対して50万円の粗利を上げれば十分だと考えがちですが、実際には1300万円分の粗利を稼いで初めて、収支が釣り合うことになります。それに満たない間は、先輩たちがその差額を穴埋めしてくれているのだということを、入社前の段階からはっきりと伝えています。

──数字の教育だけでなく、人としての魅力を磨くような教育にも力を入れていると伺いました。

浜島様:学校のテストではカンニングは許されませんが、実社会では想定問答をきちんと準備できる人ほど評価されます。当社が重視しているのは、暗記力よりも、お客様に好かれ、信頼されることです。その第一歩として、話を聞く際にしっかりと頷く訓練を行っています。2人1組になり、頷いている様子を実際に動画で撮影して、自分の頷き方が相手にきちんと伝わっているかを確認するのです。依頼された内容は必ずメモを取り、期限に対しても、金曜日が締め切りであれば水曜日か遅くとも木曜日には提出するよう徹底しています。提出後は「先ほどメールでお送りしましたが、ご確認いただけましたか」と一声添えることも欠かしません。「たぶんできると思います」ではなく「必ずこのようにいたします」と言い切る話し方も、繰り返し訓練しています。名刺交換をした相手には礼状を送り、社外で役職の高い方に会った際には「お仕事で大切にされていることを一つ教えてください」と尋ね、その答えを必ずメモに残すよう伝えています。目指しているのは、「浜島防災システムの担当者」ではなく、「あの人のいる浜島防災システムに頼みたい」と、社名より先に社員個人の名前が挙がる状態です。

──社名より先に、社員個人の名前が挙がる。信頼を積み重ねる工夫が随所にありますね。実際にこうした教育を受けた社員には、どんな変化が表れていますか。

浜島様:大きな効果が出ています。課長職以下の社員でも、一度の賞与で300万円台から400万円台を受け取る例が複数出てきており、年収1000万円を超える社員も生まれました。数字そのものよりも、人からの信頼を大切にする姿勢を徹底してきた結果だと感じています。

会社の理念や考え方

──「儲けの仕組み」を教える根底には、どのような考え方があるのでしょうか。

浜島様:新卒社員にまず伝えているのは、会社のために働くという発想ではなく、自分自身のために働いてほしいということです。経済的に早く自立し、しっかりと稼げるようになったほうが、人は幸せになれると考えています。日本では、お金を稼ぐことに対してどこか後ろめたいイメージを持つ人が少なくありません。しかし粗利とは、お客様に満足していただいた結果として得られるものです。それが増えることは、年収の向上にも、納税を通じた社会への貢献にもつながる、望ましいことだと伝えています。

研修室で社長が社員に直接語りかける様子

──「仕事を好きになる」ということも、大切にされている言葉のひとつだそうですね。

浜島様:仕事ができない人の多くは、仕事そのものが好きではありません。逆に、仕事が心から好きで、まったく成果を出せない人を、私は見たことがないのです。学生の多くは、実際に働く前から「仕事はつらいもの」という思い込みを抱いています。脳の仕組みから見ても、人はワクワクしている状態でこそ、集中力や記憶力を発揮できます。まず仕事を好きになってもらうこと自体が、成長への一番の近道だと考えています。

──失敗に対する考え方についても、独自の方針があると伺いました。

浜島様:新入社員は当社の仕事をしたことがないのですから、失敗するのは当然のことです。1年目にたくさん失敗を経験しておいたほうが、2年目に後輩ができたとき、頼りがいのある先輩になれます。誰よりも多く失敗し、それを乗り越えた人こそが成功者だという考え方を、繰り返し伝えています。ただし、挑戦した末の失敗と、手を抜いた末の失敗は明確に区別しており、後者については厳しく指導しています。

会社の歴史・転換点

──これほどの成果が出るようになった背景には、どのような転換点があったのでしょうか。

浜島様:先代から経営を引き継いだ当初、長く勤めているというだけで、成果を出す前提を意識しない社員が少なくありませんでした。正直に言うと、このまま会社を畳んだほうがよいのではないかと考えたこともあります。当時、幹部だった6人がまとめて退職するという出来事もありました。ところが、幹部が一斉に退職したその年、当社は過去最高の業績を記録したのです。この経験から、長年染みついた意識を変えるよりも、まっさらな新卒を一から育てるほうが会社の成長は早いと確信するようになりました。

──実績にも、その転換がはっきりと表れているそうですね。

浜島様:60期を迎えた今期から14年前、46期の当社の1人当たりの生産性は763万円で、正直に言うと潰れかけていました。そこから粗利はおよそ4倍の18億7,600万円に伸び、生産性も3倍以上、60期には2,501万円という水準に達しています。これは、同業の上場企業をも上回る数字です。平均年収についても、直近の実績で734万円まで伸びており、今期はさらに引き上げて800万円という目標に近づいています。

──地元密着の企業であることによる、独特の難しさもあったのでしょうか。

浜島様:地元密着型の会社として、業績が良いという事実を、これまであまり積極的には口にしてきませんでした。しかし、業界内でも業績が伸び悩む会社が少なくないなか、今後はこうした実績をオープンに伝えていってもよいのではないかと考えるようになりました。

活躍する社員について

──具体的に活躍している社員のエピソードがあれば教えてください。

浜島様:入社6年目になる社員で、1年目から工事現場の管理を任せている者がいます。現場では数字を出すこと以上に、お客様から再び指名していただけるかどうかが重要です。この社員は、次回も同じ担当者を指名して発注いただける機会が増え、協力していただいている職人の方々からも「最近、良い社員が増えましたね」と声をかけていただけるようになりました。粗利を稼ぐだけでなく、自分にとっても、お客様にとっても、協力会社にとっても良い状態をつくれる社員が育ってきています。

事務所で工事現場の書類に向かう社員

──個人の実力と、会社への信頼のバランスについては、どのように考えていますか。

浜島様:当社の事業は法人のお客様を対象としたB2Bであるため、成果の8割は会社の信用や実績によるもので、個人の努力によるものは2割程度だと考えています。粗利を稼げるようになると自分の実力を過信してしまう社員も出てくるため、この比率は入社当初からはっきりと伝えるようにしました。加えて、どのような行動がお客様に好まれ、信頼につながっているのかを個人の暗黙知にとどめず、言語化して組織全体で共有することも大切にしています。

──社内での情報共有についても、特徴があるそうですね。

浜島様:良いことも悪いことも、当社では社内で隠さず共有する方針です。ミスをすれば会社に経済的な損失が生じますが、その社員が身をもって経験したことを組織全体で共有すれば、同じ失敗を防げるという意味で価値があると考えています。最近の若手は叱られることに慣れていない面もありますが、挑戦した末の失敗であれば、むしろ堂々としていればよいと伝えています。

北海道への社員旅行での集合写真

会社の事業について

──貴社の事業内容について教えてください。

浜島様:自動火災報知設備やスプリンクラーをはじめとする消防用設備の設計・施工・メンテナンスを主軸に、消防用品の販売や省エネ関連商材の提供まで手がけています。昭和35年の創業から60年以上にわたり、愛知県豊川市を拠点に、東海地区で人々の命と財産を守る仕事に携わってきました。現在は知立・名古屋・豊田・安城・静岡にも拠点を構え、地域に根差した総合消防設備会社として事業を広げています。大手メーカーとの取引でも高い評価をいただいており、主要な取引先のひとつとは、20年連続で全国トップクラスの取引実績を築いてきました。近年は、省エネ商材や、これまで培ってきた経営ノウハウを生かした業績支援サービスなど、防災設備の枠を超えた新しい事業にも挑戦しています。

──事業の特性が、人材育成の方針にも影響している部分はありますか。

浜島様:消防設備の工事は、当社の社員だけでなく、協力していただく職人の方々があって初めて成り立ちます。お客様との窓口となる担当者個人の信頼はもちろん大切ですが、それ以上に、会社としての信用と実績の積み重ねが問われる仕事です。だからこそ、個人の力を誇示するのではなく、会社の看板を背負っているという自覚を持たせる教育を大切にしています。

未来への取り組み・今後の展望

──今後、社内の組織づくりにおいて取り組もうとしていることを教えてください。

浜島様:現在63歳になり、あと2、3年で社長を退くことも考えています。この20年ほど、新卒研修はほぼ私自身が担ってきましたが、それではいずれ立ち行かなくなります。そこで今、人数や場所、時間に関わらず学べるよう、研修の仕組みをeラーニング化する取り組みを進めています。あわせて、私の考え方を徹底的に学習させた「AI浜島社長」をつくり、判断に迷ったときにいつでも相談できる状態を用意しようとしています。社長本人が直接助言すると威圧的に受け取られかねない場面でも、AIであれば気兼ねなく頼ってもらえるはずです。

──今後のビジョンについて聞かせてください。

浜島様:学生の多くが、実際に働く前から仕事はつらいものだと思い込んでいます。それは、仕事が楽しいと胸を張って言える大人が、身近にいないからでしょう。当社から、仕事を楽しいと言えるそうした大人を、一人でも多く増やしていきたいと考えています。今は、後継者がいないというだけで、黒字であっても廃業を選ばざるを得ない会社が数多くあります。当社で育ち、どこに行っても通用する力と自信を身につけた社員が、いずれそうした会社を引き継ぎ、社員が生き生きと働ける会社を増やしていく。そんな未来を描いています。

海辺でのクルーザーイベントに集まる社員の皆様

──せっかく入社してくれた社員には、という思いも強いそうですね。

浜島様:これだけ会社がある中で当社を選んでくれたのですから、入って良かったと思ってもらえなければ気が済みません。将来、当社を離れる社員が出てきたとしても、離れたことを後悔するくらい良い会社にしてやろうという思いを、いつも持ち続けています。

✺ Interviewees

お話を伺った方

  • 浜

    代表取締役

    浜島 豊博 様

    1982年 株式会社ブリタニカ 入社(フルコミッション営業) 1990年7月 浜島防災システム株式会社 入社 1993年7月 浜島防災システム株式会社 役員就任 2000年2月 浜島防災システム株式会社 代表取締役 就任

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