多様な正社員制度の規定がある事業所は、2023年度時点で23.5%にとどまります。前年度の24.1%からわずかに減少しており、導入が広がっているとは言えない状況です。人材の確保と定着に悩む企業にとって、この制度をどう位置づけ、どう設計すればよいのかを整理します。
多様な正社員制度とは
多様な正社員制度とは、勤務地、職務内容、勤務時間のいずれかを限定した正社員の雇用区分です。厚生労働省は次の三つの類型を示しています。
- 勤務地限定正社員:転勤の範囲や有無を限定した正社員
- 職務限定正社員:担当する業務の範囲を限定した正社員
- 勤務時間限定正社員(短時間正社員):所定労働時間を短縮した正社員
いわゆる正社員と非正規雇用の労働者との間にある働き方の二極化を緩和し、企業の人材確保と従業員のワーク・ライフ・バランスの両立を支援する制度として位置づけられています。
導入は事業所の23.5%、規模による差も大きい
厚生労働省「令和7年版労働経済の分析」によると、多様な正社員制度の規定がある事業所の割合は、2022年度が24.1%、2023年度が23.5%でした。この数値は2023年12月1日から29日にかけて実施した事業所調査にもとづいています。事業所規模別に見ると、次のとおり差があります。
- 従業員5人から29人の事業所:22.0%
- 従業員30人から99人の事業所:29.6%
- 従業員100人から499人の事業所:34.7%
- 従業員500人以上の事業所:46.0%
出典:厚生労働省「令和7年版労働経済の分析」(2025年公表、事業所調査は2023年12月実施)
従業員500人以上の事業所では約半数が制度を備える一方、30人未満の事業所では5社に1社程度にとどまります。中小企業では、転勤や職務の範囲を明文化しないまま、実質的に限定された働き方を社員に求めているケースが少なくありません。
多様な正社員制度を導入する5つの実践ステップ
ステップ1:限定する軸を絞り込む
まず、自社が抱える課題を具体的に定義します。転勤を理由に離職する社員が多いのか、特定の専門職を確保したいのか、育児や介護と両立できる働き方を求める声が強いのかによって、勤務地・職務・勤務時間のどの軸を限定するかが変わります。三つを同時に導入する必要はなく、優先度の高い一つから始めることが現実的です。
実施チェック:離職理由や採用面談での要望を過去1年分洗い出し、限定する軸を一つに絞り込めていますか。
ステップ2:就業規則と労働契約書に限定内容を明記する
限定の内容は、就業規則、労働契約書、辞令の三つの段階で具体的に明示します。転居を伴う転勤の有無、担当業務の範囲、所定労働時間を曖昧にせず、書面で確認できる状態にすることで、社員がキャリアの見通しを立てやすくなります。
実施チェック:限定の範囲を就業規則と労働契約書の双方に反映し、社員へ書面で通知していますか。
ステップ3:いわゆる正社員との均衡処遇を設計する
賃金水準は、いわゆる正社員の8割から9割程度に設定する企業や、転勤の可能性に応じた係数を賃金テーブルに反映する企業があります。経験できる職務の範囲に大きな差がない場合は、昇進のスピードや上限に過度な差を設けないことが望ましいとされています。
実施チェック:賃金水準の設定根拠と、昇進・昇格の基準を文書化していますか。
ステップ4:転換制度を双方向で設計する
非正規雇用の労働者から多様な正社員への転換に加えて、いわゆる正社員から多様な正社員へ、また多様な正社員からいわゆる正社員へと、双方向に転換できる仕組みを用意します。転換には本人の同意を必須とし、転換回数の上限や選考の基準をあらかじめ定めておくと、運用時の混乱を防げます。
実施チェック:転換の要件、時期、回数の上限を制度として定め、本人同意の手続きを明確にしていますか。
ステップ5:労使協議と周知、育成の体制を整える
制度の導入前には、労働組合または従業員の過半数代表と十分に協議します。あわせて、いわゆる正社員側の転勤や配置転換の必要性も見直し、多様な正社員という選択が不利にならない職場環境を整えます。導入後は、職業能力を可視化し、限定された条件のなかでもキャリア形成を支援する研修機会を計画的に設けます。
実施チェック:労使協議の記録を残し、制度の周知資料と育成計画を用意していますか。
まとめ
多様な正社員制度は、転勤や長時間労働を前提にできない人材を、正社員として確保し続けるための選択肢です。事業所規模が小さいほど導入が進んでいない現状は、裏を返せば、先に整備した企業が採用と定着で優位に立てる余地が大きいことを意味します。自社の課題に合わせて軸を一つ選び、就業規則の整備から着手することが、実行への近道です。
多様な正社員制度の設計や、限定した働き方のなかで社員を育てる仕組みづくりについては、資料請求からお気軽にお問い合わせください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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