不妊治療を経験した人の26.1%が、仕事との両立に行き詰まり離職・治療中断・雇用形態の変更のいずれかに至っています。厚生労働省の調査データをもとに、支援制度を「使われる仕組み」に変える5つの実践ステップを解説します。
不妊治療を経験した人の4人に1人が、仕事との両立に行き詰まっている
厚生労働省が令和5年度に実施した「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」によると、不妊治療の経験者のうち、仕事と両立できずに退職した人が10.9%、不妊治療そのものを諦めた人が7.8%、雇用形態を変更した人が7.4%で、合わせて26.1%が何らかの形で両立に行き詰まっています。
不妊治療を経験した方のうち26.1%の方が、不妊治療と仕事を両立できずに離職したり、雇用形態を変えたり、不妊治療をやめたりしています。(厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」令和5年度)
また、日本産科婦人科学会が2025年8月に発表した集計では、2023年に体外受精で生まれた子どもは85,048人と過去最多を更新し、同年の総出生数のおよそ9人に1人にあたります。不妊治療は、一部の社員だけが直面する特別な事情ではなく、多くの職場に静かに存在している課題だといえます。
「言えない」ことが、両立を難しくしている
同調査では、不妊治療と仕事の両立が難しいと感じる理由として、「通院回数が多い」(53.5%)、「精神面で負担が大きい」(51.4%)、「通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しい」(35.9%)が上位に挙げられています。
さらに見過ごせないのは、不妊治療の経験者・予定者のうち47.1%が、職場で治療について一切伝えていない、または伝える予定がないと回答している点です。伝えない理由としては、「伝えなくても支障がないから」(37.1%)、「周囲に気遣いをしてほしくないから」(33.0%)、「不妊治療がうまくいかなかったときに職場に居づらいから」(27.7%)が多く挙げられました。
つまり、多くの社員は、伝えれば配慮してもらえるかどうか分からないまま、一人で通院と仕事の調整を抱えています。この「言いにくさ」を前提にしなければ、どのような支援制度を用意しても使われないまま形だけのものになってしまいます。
企業の対応は、まだ追いついていない
同じ調査では、企業側の対応状況も明らかになっています。自社に不妊治療を行っている従業員が「いる」と把握できている企業はわずかで、62.3%が「わからない」と回答しました。また、不妊治療を行っている従業員が利用できる支援制度がある企業は26.5%にとどまり、従業員への普及啓発を実施していない企業は95.7%、相談や面談の機会を設けていない企業は78.9%にのぼります。
「実態が見えていない」「制度が整っていない」「知らされていない」という三つの遅れが重なることで、社員は誰にも相談できないまま両立の負担を抱え込み、離職という選択につながりやすくなります。
両立支援を機能させる5つの実践ステップ
ステップ1:「言わなくても使える」休暇・時間単位の制度を用意する
不妊治療を目的として明示しなくても利用できる休暇制度や、半日・時間単位で取得できる年次有給休暇は、調査でも従業員が最も希望する制度として挙げられています。不妊治療に特化した休暇を新設するだけでなく、多様な目的で使える休暇として設計することで、申請の理由を伝えずに利用しやすくなります。
実施チェック:不妊治療の目的を伝えなくても使える休暇制度や、時間単位で取得できる休暇が、就業規則に明文化されていますか。
ステップ2:柔軟な働き方の選択肢を広げる
テレワーク、フレックスタイム制度、時差出勤、所定外労働の制限といった働き方の柔軟性は、通院日程と業務の調整を両立させるうえで欠かせません。すでに支援制度がある企業では、半日・時間単位の休暇に加えて、テレワークや短時間勤務を組み合わせて導入している例が多く見られます。
実施チェック:通院日程と業務を調整できる勤務制度が用意されており、対象となる従業員本人に周知されていますか。
ステップ3:相談窓口と両立支援担当者を明確にする
厚生労働省が令和4年4月に新設した「くるみんプラス」の認定基準では、休暇制度や柔軟な勤務制度の整備に加えて、両立支援に関する方針の周知、労働者の理解を促進する研修、そして相談に応じる両立支援担当者の選任が求められています。誰に、どのように相談すればよいかが明確でなければ、制度があっても使われません。
実施チェック:不妊治療に関する相談を誰にどう伝えればよいか、従業員が迷わず答えられる状態になっていますか。
ステップ4:管理職と従業員の理解を広げる
前述のとおり、両立支援に関する普及啓発を実施していない企業は95.7%にのぼります。管理職向け・従業員向けの研修や資料の整備を通じて、不妊治療についての基本的な理解を広げることが、「言いにくさ」を和らげる土台になります。踏み込みすぎない範囲で必要な配慮ができるよう、管理職に具体的な対応方法を示すことが重要です。
実施チェック:管理職は、部下から不妊治療について相談を受けた際にどのように配慮すればよいかを、学ぶ機会を得ていますか。
ステップ5:助成金と認定制度を活用し、取り組みを制度化する
中小企業事業主向けの両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)は、休暇制度等の環境整備に取り組み、労働者に一定日数利用させた企業を支援する制度です。あわせて、くるみんプラスなどの認定制度を目標に据えることで、単発の対応にとどまらず、両立支援を継続的な仕組みとして根づかせやすくなります。
実施チェック:自社の取り組みを両立支援等助成金やくるみんプラスの認定要件と照らし合わせ、次に何を整備すべきか把握できていますか。
まとめ
不妊治療を経験した人の26.1%が仕事との両立に行き詰まる一方、47.1%は職場でそのことを一切伝えていません。企業の側も、従業員の状況を62.3%が「わからない」と答えるなど、実態の把握や制度整備が追いついていないのが実情です。不妊治療は本人から言い出しにくい課題だからこそ、伝えなくても使える休暇制度、相談窓口の明確化、管理職の理解、そして助成金や認定制度の活用を組み合わせ、仕組みとして支える取り組みが求められます。
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Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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