人手不足が高止まりし、上場企業には人的資本の情報開示が求められる時代になりました。採用で人数を確保するだけでは組織の力は高まらず、いま在籍している社員一人ひとりの能力をどう可視化し、育成・配置・評価へつなげるかが問われています。その中核となる考え方が「タレントマネジメント」です。本記事では、公的調査の数字を手がかりに、タレントマネジメントを形だけで終わらせず成果につなげるための導入5ステップを、各ステップの実施チェックとあわせて解説します。
タレントマネジメントとは何か
タレントマネジメントとは、社員の能力・スキル・経験・評価・キャリア志向といった情報を一元的に可視化し、採用・育成・配置・評価・後継者育成といった人材マネジメントの各場面を、経営戦略と結びつけながら一貫して運用する取り組みを指します。
言葉の由来は古く、1990年代後半に米国のマッキンゼー・アンド・カンパニーが行った人材マネジメントに関する調査にさかのぼるとされています(出典:カオナビHRテクノロジー総研)。当時の米国では企業間の人材獲得競争が激しく、優秀な人材をいかに採用し定着させるかという問題意識から、この概念に注目が集まりました。
「タレント」をどう捉えるかには幅があります。全社員の能力を対象とする立場もあれば、一部の高い成果を上げる人材に絞る立場もあります。ただし多くの定義に共通するのは、人材の能力を引き出し、組織の成果につなげるという目的です。
社員が能力・スキルを十分に発揮できるよう、人材の配置を最適化するために、人材データや人材情報を管理すること(出典:カオナビHRテクノロジー総研による定義の整理)
なぜいま注目されるのか――3つの背景
背景1:人手不足が高止まりしている
帝国データバンクの調査では、正社員が「不足している」と感じる企業の割合は2025年10月時点で51.6%にのぼり、約半数の企業が人手不足の状態にあります(出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」)。採用市場で人数を確保することが難しい以上、いま在籍する社員の能力を最大限に引き出し、適所に配置することの重要性が高まっています。
背景2:人的資本の情報開示が求められている
2023年1月に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、2023年3月期決算以降、有価証券報告書を提出する大手企業(およそ4,000社)に対し、人的資本に関する「戦略」と「指標及び目標」の記載が義務づけられました(出典:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正)。2026年にはさらに府令の改正や指針の改訂が進められており、人材情報を可視化し、社外へ説明できる状態にしておくことが経営の前提になりつつあります。
背景3:育成の現場が課題を抱えている
厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」によると、能力開発や人材育成に関して「何らかの問題がある」とした事業所は79.9%にのぼります(出典:厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」)。同じ調査では、計画的なOJTを正社員に実施した事業所は61.1%にとどまり、育成が場当たり的になりやすい実態がうかがえます。誰にどの力が不足し、どう育てるのかを、情報に基づいて判断する仕組みが求められています。
「言葉は広まったが、実装は道半ば」という現実
一方で、タレントマネジメントは概念ほどには実装が進んでいません。人事・総務担当者1,000名を対象とした調査では、「タレントマネジメント」という概念を理解していると言える人は48.4%と過半数に届かず、タレントマネジメントシステムを導入済みの企業は18.9%にとどまりました(出典:カオナビHRテクノロジー総研)。
同じ調査では、従業員数が50人・500人・5,000人の節目で導入が進みやすい傾向も示されています。組織が大きくなり、人手だけでは人材情報を把握しきれなくなる局面で、必要性が高まるためと考えられます。
ここで大切なのは、タレントマネジメントを「システムを導入すること」と同一視しないことです。ツールはあくまで手段であり、目的を定め、データを育成・配置・評価という意思決定につなげる仕組みづくりこそが成果を分けます。
タレントマネジメントを成果につなげる5つの実践ステップ
ステップ1:目的とゴールを定義する
はじめに「何のために行うのか」を明確にします。離職を防ぎたいのか、後継者を計画的に育てたいのか、適材適所の配置を実現したいのか、人的資本開示に対応したいのか。目的を欲張らず、一つか二つに絞ることが、現場が動ける計画につながります。あわせて、成果をどう測るかの指標(たとえば離職率、重要ポジションの後継者カバー率、配置の充足率など)を先に決めておきます。
- 経営課題と結びついた目的を一つか二つに絞ったか
- 成果を測る指標を、開始前に決めたか
- 目的について経営層と合意できているか
ステップ2:人材データを集約し、可視化する
次に、目的の達成に必要な人材データを集めます。氏名や所属といった基本情報に加え、保有スキル、評価履歴、職務経歴、研修受講歴、本人のキャリア志向、エンゲージメントの状態などが対象です。最初から高機能なシステムを導入する必要はなく、表計算ソフトから始めても構いません。大切なのは、目的から逆算して「本当に使うデータ」だけを定義し、更新が続く運用にすることです。
- 集めるデータ項目を、目的から逆算して定義したか
- 誰が・いつ更新するかの運用ルールを決めたか
- 既存の評価制度やスキルマップと連動させたか
ステップ3:育成・配置・評価に「つなぐ」
データは集めるだけでは価値を生みません。可視化した情報を意思決定に使うことが核心です。必要な能力と現状との差を見える化し(スキルマップが有効です)、不足を埋める育成計画へ落とし込みます。配置の検討や後継者の選定、評価面談や1on1の場でもデータを参照し、根拠のある対話へと変えていきます。
- 必要な能力と現状との差を見えるようにしたか
- 育成・配置・評価の会議でデータを参照する運用にしたか
- 1on1など現場の対話にデータを活かしているか
ステップ4:現場(管理職)を巻き込み、運用に乗せる
タレントマネジメントが形骸化する最大の要因は、人事部門だけで完結させてしまい、現場の管理職が「入力させられるだけ」になることです。管理職が自分のチームづくりに役立つと実感できてはじめて、データの入力と活用が定着します。目的と使い方を丁寧に共有し、入力項目を絞って負担を最小化することが、運用を続ける鍵になります。
- 管理職に目的と使い方を説明したか
- 入力項目を絞り、現場の負担を抑えたか
- データ活用が現場のメリットにつながる設計か
ステップ5:効果を測定し、改善を回す
最後に、ステップ1で決めた指標で効果を検証し、改善を繰り返します。半年から1年ごとに運用を見直す場を設け、使われていないデータは削り、不足している観点は加えます。検証の結果は、人的資本開示で求められる「指標及び目標」の説明にもそのまま活かすことができます。
- 開始時に決めた指標を定期的に確認しているか
- 半年から1年ごとに運用を見直す場を設けているか
- 検証結果を次の計画と情報開示に反映しているか
導入でつまずかないための3つの注意点
第一に、ツールの導入そのものを目的にしないことです。システム導入率が2割弱にとどまる現状が示すように、ツールは入れただけでは活用されません。第二に、データを集めて終わりにしないことです。活用の設計があってこそ、可視化は意味を持ちます。第三に、小さく始めることです。対象を特定の部署や階層に絞り、目的を一つに定めて成果を出し、横へ広げていく進め方が、定着への近道になります。
まとめ:「可視化」から「活躍」へ
人手不足が続き、人的資本の開示が求められる時代において、タレントマネジメントはもはや大企業だけのものではありません。鍵となるのは、立派なシステムをそろえることではなく、目的を絞り、人材データを育成・配置・評価という意思決定につなげる仕組みを地道に回すことです。社員の力を「見える化」するだけでなく、「活躍」へとつなげる視点を持つことが、組織の成長を後押しします。
WONDERFUL GROWTH では、人材の可視化から育成・定着までを一貫して支援する研修・人材育成サービスをご提供しています。自社のタレントマネジメントを成果につなげたいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。
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