会社の育成論ーー育成として、現状力を入れて取り組まれていることや効果を実感されていることがありましたら教えてください。当社のテーマは「人財共育」です。ここでいう「人材」は財産の「財」であり、「教育」は「共に育む」という意味を持ちます。当社の事業目的の中には「物心両面」という言葉があり、ものと心の両面の幸せを追求するという考えがあります。従業員の皆さんに幸せになっていただくために、「物」という面では経済的な豊かさを、そして「心」という面では心の豊かさを、この両面をしっかりと追求しています。直近で最も力を入れているのは「社内木鶏会」です。「致知」という雑誌を使って感想文を書き、木鶏会で人間性を育むという取り組みを毎月行っています。また、年に1回の社員研修や、「スマイルピース」という感動体験集の共有も実施しています。これは、マニュアルを超えたお客様との接し方を、心を通じて学ぶというものです。ーーこのような育成体制は、経営の途中から生まれてきたものでしょうか?何か始められるきっかけはありましたか?最初に始めたのは「社長面談」です。1人ずつ約1時間かけて、社員やアルバイトの希望者と年に2回面談をしています。これは私が社長になった時に、社長として何が一番大切な仕事なのかを追求していく中で、一人一人に理念をしっかりと直接伝えていくことが大切だと気づいたことがきっかけです。面談を始めたちょうどそのタイミングで、私が代表になってすぐに会社が急に転落し、リーマンショックも重なって倒産の危機に陥ってしまいました。それまではIPO準備も進めていて、業績を上げていくことで突っ走っていました。しかし、リーマンショック後に考え方が180度変わりました。やはり社員が幸せになるから会社が大きくなっていくのだと気づいたのです。ちょうどその頃、2009年に私個人で「致知」を読み始め、また「盛和塾」という経営塾にも入って経営の勉強をしました。そこで従業員を大切にすることの重要性をしみじみ感じましたし、経営の苦難を経験する中で従業員にしか頼れないことも多くありました。「物心両面」というテーマは京セラの経営理念にも含まれていて、盛和塾で学んでいる会社には多いのですが、ただそれだけにとどまらず、心の幸せとは何かを追求し、幸せを感じる心を育んでいくために研修や本、体験を通じて人間性を育む教育を行ってきました。ーーこのような取り組みによって、社員の皆さんの考え方や行動に変化はありましたか?やはり考え方が変わると、言葉も変わってくるんですね。また、「他者への思いやり」も育んでいくので、周りの方々への気遣いも変わってきました。何より外部からの声が大きく変わってきました。例えば最近、店長が転勤で別のお店に移ったところ、元のお店のお客さんから「戻してください」という要望の電話やメールがたくさん届きました。一人ひとりのスタッフにファンがつくようになり、お店のファンイコールスタッフのファンという状況が、ここ数年で多くなってきたと実感しています。会社の理念や考え方ーー御社の理念として特に大事にされている観点について教えてください。やはり「人」が一番大事です。ただし、人それぞれ考え方があるので、常に前向きであったり、同じ話を聞いてもプラスとして捉えるポジティブな姿勢を大切にしています。根底にあるのは皆さんが幸せになっていくということが前提なので、「前向きに捉えましょう」「ポジティブに考えましょう」「苦労があったら自分が成長するチャンスをいただいたと考えましょう」といった言葉を常に発信し続けています。ただし、会社が良くなるためにそうなってほしいという思いではなく、もし何かのきっかけで当社を辞めたとしても、その人が幸せに人生を歩める人づくりが会社としてやっていくべきことだと思っています。そこに集中してやらせていただいています。ーー御社ではお客様とのかかわり方についてどのような考え方をお持ちですか?当社のテーマとして、当社は小売業ではなく「感動体験業」であるという定義をしています。もちろん小売店なので対応マニュアルはありますが、それはあくまでも小売業のマニュアルです。私たちは感動体験業なので、感動体験業のマニュアルというものはなかなか作れません。そこで「スマイルピース」という感動体験集を作り、一人の感動を全員の感動にして、その感動を自分ごととして捉えたときに行動と言葉に表れていくという考え方で勉強しています。会社の歴史ーーリーマンショックの時、倒産寸前だったとのことですが、それを乗り越えるためにどのような取り組みをされたのでしょうか?当時は2ちゃんねるに「タム・タム潰れる」といったスレッドが7つか8つほど立っていました。従業員から「会社は潰れそうだとネットに書いてますが大丈夫ですか?」と聞かれた時、私は正直に「書いてある通り、今危険です」と答えました。「もしあなたが力を貸してくれるのであれば、60%しか力を貸せないとしても、その60%でも助かるので貸してください」とお願いしました。そんな環境の中で辞めていった従業員もいましたが、残ってくれたスタッフが頑張ってくれました。私自身も裏方的な事務作業や値段変更など、私にしかできない仕事をかなり行いました。しかし、お店を支えてくれたのはスタッフでしかありません。結局、会社経営を続けられるチャンスを従業員からいただいたので、やはり従業員を幸せにするという責任があると感じています。ーー他にも経営で大変だった出来事はありましたか?リーマンショックほどの経験はその後ありませんが、例えば東日本大震災の時には、比較的早く行動できたと思います。従業員とその家族の食料を、福井経由で山形に行って仙台に届けたり、取引先の方のご両親が仙台で困っていたので食料やガソリンを届けに行ったりしました。そういったことも慌てずにできたと思います。コロナ禍については、当社の業界は追い風でした。プラモデルやラジコンなどが爆発的に売れました。当時は営業するかどうかの判断が必要でしたが、当社の幹部との話し合いでは「どうやったら営業できるか」という前提での話し合いしかありませんでした。もちろん営業時間短縮も行いましたし、マスクも中国などから直接仕入れて販売しました。その利益は臨時ボーナスとして社員全員に配りました。やはり最前線でコロナの恐怖感の中で営業しているわけですから、会社として報いるには備えとお給料という部分でお返しするしかないと考えたからです。アルバイトさんにも一時金を出させていただきました。活躍する社員についてーー活躍されている社員の皆さんに共通している特徴はありますか?非常に増えてきたのは「主体性」ですね。自ら考えてお客様に向き合うということです。指示通りではなく自主的に動くということが目立ってきました。実際に本社でも各店舗でイベントが毎週どこかで行われていますが、それは店舗ごとに考えて実施しており、私たちは後から報告を受けるだけです。また、毎月行っている営業会議では、成功事例の発表が多いのが特徴です。各店で「こういうポップを作りました」「こういうイベントをしました」「このような反応がありました」といった報告をしています。すると他の店舗から「そのポップをください」といった声が上がり、うまくいったポップや飾り付けが全店で共有されていきます。成功事例を全店で共有してお店をブラッシュアップしていくという流れができています。ーー社員の方の取り組みで感動されたことはありますか?やはり面談で半年に1回会う中で、スタッフの成長ぶりを感じると嬉しくなります。受け身で面談していた人が、主体的に質問してくるようになったり、そういった変化を見ると成長を感じて感動します。例えば、当社では「タム・タム文庫」といって、私が読んだ本を店舗に置いて自由に読んでもらう取り組みを3年間ほど行っていました。面談時に本を読むことの大切さ、学ぶことの大切さを伝え、自分に合った学びの手段として読書が適していると伝えてきました。最初は本に拒絶反応を示していた人も、少しずつ読書に慣れていき、4年後には「早く致知が毎月届かないかな、楽しみに待っている」と言うようになった人もいます。そういう変化を見ると本当に嬉しいですね。ーー社員の成長のために、どのような環境づくりをされていますか?当社では「マイスター制度」という制度を2012年に設けています。これは「CSマナー判定」という80項目の評価があり、挨拶や笑顔などの項目が3.5以上の方が初心者の商品知識テストを受けられます。例えばラジコンのテストやプラモデルのテストがあり、両方のテストで90点以上取るとマイスターのバッジがもらえ、手当てもつきます。これはあくまでも人間性が基盤ですが、お客様に最高のサービスをするためのものです。まずマナーができていないと、いくら知識があってもマイスターにはなれません。基本は人間力の部分にあります。また、当社に入ってくる従業員の多くはもともと当社のお客様なので、元々好きな分野の商品知識はあります。そこで2つのカテゴリーのテストに合格することで、店頭の複数部門を見られるような興味を持たせる仕組みになっています。知識の向上を能動的に学ぶ環境を作るための仕組みです。また、当社では年に3〜4回「お客様感謝祭」を開催し、その際にお客様にアンケート調査をしてもらいます。商品の品揃え、価格、スタッフの対応、知識の4項目を点数づけしてもらい、その数字を見て改善点を把握します。第三者の目をお客様にしていただくことで、客観的な評価を得られます。スタッフは基準として4点以上を目指して取り組み、結果としてお客様対応の評価が4.3を超えるお店も出てきています。この点数や売上、経常利益などを基に年間の最優秀店舗が決まります。選ばれたお店の店長は嬉しさのあまり泣いてしまうほどです。数値だけでなく、仕組みとしてPDCAサイクルもあり、年間の重点課題を設定して毎月トレースをかけ、達成率を管理しています。そのため、店長たちはお店の数字をしっかりと把握し、自分がコントロールできる部分に注力しています。会社の事業についてーー御社の事業内容について教えてください。当社はプラモデルやラジコンなどを扱う小売店ですが、自分たちを「感動体験業」と定義しています。商品の販売だけではなく、ラジコンサーキットや鉄道模型を走らせるジオラマ、ミニ四駆サーキット、北海道ではサバイバルフィールドなども提供しています。つまり、お客様が買ったものや作ったもので遊ぶ場所も提供しているのです。お客様は遠方から来られることも多く、例えば仙台店では青森からもお客様が来られます。そのため、全国的には隙間はありますが、一応全国に店舗が点在しています。未来への取り組み、今後やりたいことーー今後、力を入れていきたい育成テーマはありますか?今まで人間性を育むことに力を入れてきましたが、今後はステージを一つ上げて「リーダー」づくりに取り組みたいと考えています。人間性を持ったリーダー作りのプログラムを作りたいと思っています。役職についていかせるようなリーダーではなく、人についていけるようなリーダーにしていきたいです。仕事ができる人は自分ができてしまうがゆえに、周りを育てることが少ないように思います。自分がリーダーシップや実力として結果を残していなくても、「この人のためなら全力でついていきたい」と思わせるスタッフが集まるような、人を引きつけられる人こそが本当のリーダーになっていくのではないかと思っています。ーー社員の成長についてどのようなことを期待されていますか?自分で目標を設定し、主体的に描いて成長していくことで、周りの人に良い影響を与える人になってほしいと思います。そういうリーダーになってほしいです。人に良い影響を与える人が一番良いと思います。良い影響は、その人の発する言葉だけで相手の質を変えたり、救う言葉をかけたりすることができます。ただし、それを伝えることは簡単ではありません。同じ内容を言っても、誰が伝えるかによって捉え方が変わります。誰が言ったかによって伝わるかどうかが決まるのです。ーー今後の事業展開についてはどのようなビジョンをお持ちですか?事業的には業績を伸ばしていきたいという思いもあります。当社の場合、お客様が遠方から来られることもあり、全国的にはある程度店舗網を構築していますが、今後は通販も強化していきたいと考えています。当社は店頭の方が強いので、通販で買ったお客様の担当者をつけることもでき、直接お店に遊びに来ていただくこともできます。バーチャルとリアルの融合、いわゆるオムニチャネルを進めていきたいと思っています。そして日本にとどまらず、世界へこの日本の文化を発信していきたいと考えています。ーー最後に、人材育成について大切にされていることを教えてください。人財共育とは、人に教育をするというより、育つ環境を作っていくために何をすべきかを考えることが会社として最も大切なことだと思います。当社では「盛和塾」での学びや様々な経験を通じて、人間性を育み、主体性を持って成長する社員が増えてきました。例えば、勉強会や合宿などにも積極的に参加したいという社員が多く、むしろ参加者を厳選しなければならないほどです。周りの経営者からは「よく社員が来てくれますね」と言われることが多いですが、当社では逆に「抑えないと皆来てしまう」という状況です。学ぶことによって謙虚さや思いやりが身につき、それが言動や行動に表れます。幹部がそういう行動を取れば、それを見たスタッフも学んで成長していきます。学ぶことは非常に大切であり、育つ環境を作ることこそが人財共育の本質だと信じています。