カイシャの育成論――まずは、御社の人材育成の考え方を教えていただけますでしょうか?石川様: 当社では、「人材」を「人財」と表現し、会社にとっての貴重な財産であると考えています。求める人財像は、何事にも情熱と謙虚さを持って、自ら学び自ら考えて、挑戦することができる人です。そのために必要な力は、「感動される力」「信頼される力」「考え抜く力」「挑戦する力」の4つと考えています。この4つの力を体現できる人財こそが、当社の成長を支える原動力となります。単に商品知識があるだけでは不十分で、お客様に感動を与え、信頼関係を築き、常に考え抜いて、新しいことに挑戦する姿勢が求められます。――具体的にはどのような研修体系を構築されているのでしょうか?石川様: このような力を持った人財を育成するために、階層別・業務別・共通スキルの研修を集合研修やeラーニングを組み合わせながら、各人および全体のスキル向上に繋げています。特に重要なのは、腕時計やバッグ・宝飾などのブランド品を扱う当社独自の鑑定スキルです。OJTや社内研修を徹底して実施し、正規品以外を販売してお客様の信頼を失うことがないように、真贋力を磨いています。山本様: また、当社が特に力を入れているのが「おもてなし」の研修です。RDHC(ロデオドライブホスピタリティコンシェルジュ)という独自の名称をつけて、お客様に最高のホスピタリティを提供できる接遇力の育成に注力しています。ブランド品をお求めになるお客様は、商品の価値だけでなく、購入体験そのものにも高い期待を持たれています。そのご期待に応えるため、スタッフ一人ひとりがコンシェルジュとしての意識を持って接客できるよう、体系的な研修を行っています。――研修の変遷についてお聞かせください石川様: 以前はOJTを中心に、実際の商品に触れながらコアスキルを磨いてきました。中古品は一点ものが多く、同じ商品であっても製造年代やコンディションの違いがあるため、細かな見極めが求められます。さらに、時計やバッグなどの各カテゴリでは、次々と新作やモデルチェンジが行われるため、常に最新の知識をアップデートしていく必要があります。こうした背景から、実際の商品を扱いながら学ぶOJTは、実務力を身につける上で非常に有効な手法でした。しかし、業務の高度化・多様化が進む中で、OJTだけではカバーしきれない知識やスキルも増えてきたことから、より体系立てた研修制度の整備が求められるようになりました。現在では、階層別研修や業務別研修を定期的に実施し、新入社員向けの基礎研修から管理職向けのマネジメント研修まで、それぞれのキャリアステージに応じた内容を用意しています。 中でも特徴的な取り組みの一つが「宝石勉強会」です。若手社員を中心に実施しているこの研修には、宝石業務に直接関わっていない部署の社員も参加でき、専門知識の習得にとどまらず、自身の業務の幅を広げる機会として活用されています。――研修の効果をどのように感じていらっしゃいますか?石川様: 最も大きな変化は、社員の意識の向上です。マネージャークラスからの人事への相談も増えており、「こういう場合はどうしたらいいか」「世の中的にはどうなのか」といった問い合わせが多くなっています。田邉様:宝石の研修は、査定担当者や鑑定士だけが持つものと、以前はそう思っていました。しかし、勉強会で学んだ「ダイヤモンドのクラリティ」「色石の特性」「合成と天然の違い」などは、商品としての価値を伝える上で不可欠な基礎知識でした。 たとえば、プロモーション用のPOPや雑誌のタイアップ取材などで「高品質」と謳うとき、それを裏付ける確かな“中身”がなければお客様の信頼は得られません。講師の方が実物の宝石を使って行った研修を通じて、「なぜこの宝石にこの価格がつくのか」「どうやって本物を見極めるのか」という視点が自分の中に備わったことは、自身の主業務であるマーケティング戦略を立てる上でも非常に大きな財産となったと思います。会社の理念や考え方――御社の経営理念について詳しく教えてください山本様: 当社は「三方良し」の考え方をベースにした経営理念を掲げています。売り手良し、買い手良し、世間良しという、人と人とのつながりを大切にする考え方です。お客様とも上下関係ではなく対等な関係で、お互いに満足できる関係を築くことを大切にしています。この理念の根底には、社会に貢献できて初めて良い商売と言えるという考え方があります。単に商品を売買するだけでなく、それが社会全体にとって価値のあることでなければならない。そういう強い信念が、創業時から受け継がれています。――その理念が現在の事業にどう活かされているのでしょうか?山本様: この理念は、SDGsの取り組みとも非常に親和性が高いものです。当社の事業であるリユースそのものが、資源の有効活用という観点で社会貢献的な活動です。そのことを社員がしっかりと理解し、誇りを持って仕事に取り組めるよう、SDGs基礎研修も導入しています。確認テストの合格まで受講した社員には、社内でSDGsのピンバッジを貸与し、会社全体でSDGsの意識を高める活動を行っています。研修を通じて得た知識を社内で共有しながら、SDGsの意識を根付かせていくことも重要だと考えています。――理念の浸透で工夫されていることはありますか?石川様:当社では理念の背景を伝えたり、日々復唱したりしています。この理念にはどういう思いが込められているのかを理解してもらうことで、表面的に覚えるのではなく、心から納得して実践してもらえるよう努めています。20年前に作られた理念ですが、当時の代表(現顧問)を初めとしたメンバーの強い思いが詰まった内容であり、その精神が現在もしっかり受け継がれています。会社の歴史――御社の歴史と業界での位置づけについて教えてください石川様: 当社は1954年に質屋として創業し、今年で71年目になります。1997年に中古ブランド品をメインに取り扱う「ロデオドライブ舶来中古本店」をオープンしましたが、実は、ブランドリユースという業態を業界で最初に始めたのが前代表(現顧問)なんです。業界のパイオニアとして、この分野を切り開いてきました。当社の前代表は、同業他社への研修の講師なども務め、ブランドリユースのノウハウを業界全体に広めていきました。――業界への貢献について詳しくお聞かせください石川様: 当社の前代表は、自社だけでなく業界全体の発展を考える人でした。自社の利益だけを追求するのではなく、ライバルである同業者にも積極的に情報を提供し、業界として盛り上げていこうという姿勢でした。不正品を排除し、業界の信頼性を高めることが重要だという考えのもと、鑑定技術や真贋の見極め方を惜しみなく共有していました。このような業界全体への貢献が、今の当社の地位につながっていると思います。――コメ兵ホールディングス傘下への移行について教えてください石川様: 当社は2024年10月23日にコメ兵ホールディングスグループに入りました。これは業界でも大きな話題になったニュースでした。70年間独立経営してきた会社としては、非常に大きな決断です。外部環境が目まぐるしく変化する中、将来を見据え、現状維持ではなく更なる成長を目指しています。――組織文化の変化はありましたか?石川様: 理念的には非常に親和性の高い会社同士であり、良い融合が生まれています。従来の考え方を大切にしながらも、様々な見直しも行われています。選択肢も大きく増え、あらゆる場面で良い変化が生まれています。伝統を大切にしながらも、時代に合わせて変化していく。そのバランスを上手に取りながら進んでいます。活躍する社員について――どのような社員の方が活躍される傾向にありますか?石川様: 自分から興味を持って、能動的に積極的に学ぶ意欲がある人は、どんどん知識やスキルを吸収していきます。また与えられた仕事をこなすだけでなく、自ら業務の範囲を広げようと挑戦している人も、失敗等も経験しながら自らの成長に繋がっていると思います。また、コミュニケーション力が高い人も活躍する傾向があります。どんな仕事でも、上司や部下・同僚が関係していたり、お客さまとの接点があったりするので、この能力はとても重要であり、実際この能力が高い人は活躍していると思います。山本様: 面接では、情熱、挑戦を楽しむ前向きな姿勢、変化を受け入れる柔軟性、そして自分自身を客観視する謙虚さを重視しています。これらの資質を持った人材が、実際に入社後も活躍される傾向にあります。――具体的な活躍事例を教えてください石川様:直接的な活躍事例ではないですが、グループ全体で選抜型の研修を行っており、今後活躍が期待されるメンバーを集めた研修なども行っています。今年は当社から2名が選ばれ参加しています。経営やファイナンス理論なども学び、プレゼンテーションも行うハイレベルな内容で、約1年間をかけて実施しています。質の高い学びを得られ、グループ各社のメンバーと刺激しあえる環境は、間違いなく今後の成長に繋がる経験であり、社内でも注目されています。山本様: また、新入社員の成長を支える仕組みとして「ブラザーシスター制度」も効果的に機能しています。新入社員には少し上の先輩が何でも相談できる相手として指定され、業務面だけでなく、社会人としての不安や疑問にも親身に寄り添っています。その結果、4月の段階では「挨拶ができるようになりたい」という基本的な目標だった新人が、5月には自分なりの目標を立てて積極的に行動するようになる。そういう変化を目の当たりにすると、人の成長の可能性を感じずにはいられません。――社員表彰制度について教えてください山本様: 年に1回、様々な賞を設けて社員を表彰する制度があります。マネージャー以上の推薦制で、バイヤー系、管理職系など部門別に分かれており、若い世代も対象になります。ノミネートされた社員は当日まで知らされず、今年受賞された社員は本当に喜んでいました。この表彰をきっかけに、さらに注目が集まり、様々な機会を得ていく。自己肯定感も上がり、自然と挑戦やチャレンジする機会も増えてくる。良い循環が生まれています。――研修の効果を感じる具体的なエピソードはありますか?田邉様: 宝石勉強会で得た最大の成果は、「他部署の仕事に対する理解」でした。普段はあまり交わらない査定部門の方々と机を並べ、同じ教材を前に取り組むことで、査定業務に対する理解とリスペクトが生まれました。このように、研修を通じて部署間の相互理解が深まり、組織全体の一体感が高まっているのを実感しています。会社の事業について――現在の事業展開について詳しく教えてください田邉様: 当社は横浜にて質屋として創業し、現在も祖業である質サービスを継続しています。また、1989年より有限会社ロディオドライブを設立。当時はブランドの並行輸入品販売をメインに行う事業でした。現在では、ブランドリユースショップとして横浜・都内をはじめ、海外にも店舗を構えるなど、国内外で事業を拡大しています。当社の強みのひとつは、本社内に設置された「自社修理工房」の存在です。国家資格である「時計修理技能士」を有するプロフェッショナルが在籍し、店頭に並ぶ時計はすべて技術者による入念な検査とメンテナンスを経たものです。当社でご購入いただいた商品はもちろん、他社で購入された時計についても修理対応が可能で、アフターサービス体制も充実しています。 さらに、当社は自社主催のBtoB向けオークションを定期的に開催しており、バッグ・宝石・時計を3日間にわたって取り扱う形式で行っています。従来は月1回の開催でしたが、2025年6月より宝石・時計のカテゴリに関しては月2回に増やしており、今後はさらなる取引高の拡大が見込まれています。――市場環境と成長戦略について教えてください石川様:リユース市場は今後ますます成長すると予測されています。この成長市場の中で、当社も更に業績を伸ばしていく計画を立てています。コメ兵グループ全体としてはブランドリユース売上高世界No.1という目標を掲げており、その中で当社も重要な役割を担っています。特に力を入れているのが海外展開、特にアジア市場です。国内市場も拡大傾向にありますが、海外に展開することでさらなる成長が期待できます。――御社の競争優位性は何でしょうか?石川様:当社は71年の歴史の中で膨大な数の商品を扱ってきました。その蓄積されたノウハウや知識と、査定力、真贋を見極める力が当社の競争優位性です。最近は一部機械による判定も可能ですが、すべて機械に頼ることはできず、最終的には人間の目による判定が不可欠です。そのための教育と人材育成こそが、この業界で成功するための鍵だと考えています。――独自の技術や取り組みはありますか?石川様: 鑑定においては、最新の機器も活用しています。例えば、貴金属の成分を分析する機器や、ダイヤモンドの真贋を判定する専用機器なども導入しています。しかし、これらの機器だけでは限界があります。ブランド品の真贋判定は、素材だけでなく、縫製、金具、刻印など、あらゆる要素を総合的に判断する必要があります。そのため、機械と人間の目を組み合わせた総合的な判定システムを構築しています。これも、長年培ってきた経験とノウハウがあってこそ可能なことです。未来への取り組み、今後やりたいこと――今後強化していきたい研修や人材育成について教えてください石川様: 最も力を入れていきたいのがリーダーシップ研修です。組織を引っ張る人材、部下を指導・育成できる人材の育成は必須です。理論では理解していても、実際に行うとなると簡単ではありません。ディスカッション形式の研修、シミュレーション、ロールプレーなども積極的に取り入れ、理論と実践の両方を学べる研修体系を構築していきます。単に指示を出すだけでなく、部下のモチベーションを高め、成長を支援できるリーダーを育てたいと考えています。――キャリア開発について今後の方針はありますか?石川様: これまでは、例えば時計の仕入れや知識を中心に学んできた社員は引き続き時計分野を、宝石業務に携わってきた社員はそのまま宝石分野を担当するなど、それぞれの専門領域で経験を積み重ね、スキルを深めていくキャリア形成が主流でした。しかし、それだけでは幹部レベルに達した時に、他の分野を理解できないという問題が生じます。今後は、若いうちに様々な部署を経験させるローテーション制度や、専門性を活かしながらも新しい分野にチャレンジできるキャリアパスを用意できればと考えています。実際に、オークション部門から人事部門に異動し、活躍している社員もいます。積み上げた経験やスキルを活かしながら、新しい分野でも成長できる仕組みを作っていきます。――組織全体としての今後のビジョンを教えてください石川様:コメ兵グループとして世界一を目指すという高い目標を掲げています。その実現のために、若手社員が将来に夢を持ち、高いエンゲージメントを維持できる会社にしたいと考えています。目標を掲げた以上、全社一丸となって取り組まなければなりません。様々な改善提案や新しいアイデアなども出てきており、多くの人が積極的に発言する雰囲気になってきています。みんなで一緒に取り組む、という意識が浸透しています。現在、人事制度全般について見直しを進めています。将来への期待が膨らみ、活躍の場が用意され、適切に評価される、そんな魅力的な制度設計を目指しています。その制度に沿って、これからどんどん若手が成長していく姿を見ていくのが楽しみです。