カイシャの育成論──最初に、現在人材育成についてどのようなお取り組みをされているのかを教えてください。長澤様:当社は1997年に設立され、同業他社にいた4名の創業メンバーによってスタートしました。これまでは、その4名の中から3名が順々に社長を務めてきたのですが、昨年6月の株主総会で、創業メンバー全員が役員を退任しました。新たな経営体制という環境になったというのが、大きな転換点です。創業メンバーがいる間は、正直なところ最後は頼れる存在がありました。しかし、それが物理的になくなったことで、私たちがやっていかないといけないという思いが強くなりました。同時に、最終的にこの経営を担ってもらえる人材を、自然に育つのを待つのではなく、きちんと育てていかないと、長期的に考えたら会社が続かないという危機感もありました。そこで、今年10月から次世代リーダーの選抜育成をスタートさせました。──選抜にあたって、どのようなメンバーを候補者として選ばれたのですか。長澤様:私たちはどちらかというと、ベンチャー気質の会社です。新しいことに挑戦してきた結果、今のベースができています。ずっとそこに頼ったままでは、10年はなんとかなっても、20年、30年、さらには50年と考えた場合に、そのままではダメだと考えています。そこで色々と会社に対して提案ができるメンバーをピックアップしました。ただし、単なる跳ね返りの提案をしている人ではなくで、部下たちからも信頼されてみんながついてきてくれるような、そういう人材を次世代リーダーの候補として選びました。──研修の内容はどのようなものなのでしょうか。長澤様:リーダーシップをテーマにしたものなのですが、リーダーシップといっても、いわゆる組織マネジメントだけではありません。会社の理念、守るべきもの、本当の価値がどこにあるのかというテーマや、会社の財務についても深く考え、ディスカッションする場が多くあります。そのため戦術よりも、もっと上の理念や、それを達成するための戦略づくりができるような研修になっています。本人たちが経営についてしっかりと考えて、どのように会社を導いていけばいいかを考え、リーダーシップを発揮してもらいたいと考えています。──2025年の10月に始まったばかりということですが、今後の手応えはいかがですか。長澤様:まだ具体的な結果は聞けていませんが、期待はしています。ただ単に「もっとこうしてほしい、ああしてほしい」と提案するだけというよりは、その提案に責任を持てるようになるという意味でも、研修が効果を表してくれるといいなと感じています。──人材育成に関して、他にも取り組まれていることはありますか。長澤様:同じく10月から、人事制度改革にも着手しました。これまでは良くも悪くも、メンバーシップ型でした。みんなで頑張ってみんなで成果を上げていくという形でしたが、もう少し専門性を持った人材を社内で育てていかないと、市場の競争という部分で勝てなくなってくると感じています。メンバーシップ型の良さも残しつつ、専門的な人材が活躍でき、評価や給与にも反映されるような体系を作っていこうと考えています。──人事制度を変えようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。長澤様:正直に言うと、変えざるを得なかったというのが本音です。将来有望だと思っていた現場のチームリーダークラスのメンバーが、離職してしまったことが一つのきっかけになりました。「もっとこういうふうにやりたい」「もう少し評価してもらいたい」という気持ちがありながら、今の制度上では有望な人だけを大きく評価するのが難しかった。そこに物足りなさを感じて辞めてしまったのだと思います。このままでは同じような優秀で有望な人材が残っていかないし、そんな人材を採用することも難しくなってくる。そう考えて、制度そのものを変えていこうと決めました。──確かに優秀な方ほど、周りを見て判断される機会がありますよね。長澤様:理想は、会社の魅力を感じてもらい、給与以外にも働く原動力を持ってもらって頑張ってもらえるといいのですが、それでもある程度は見返りをちゃんと用意しないと難しいと感じています。──魅力づくりという点で、他にも取り組まれていることはありますか。長澤様:今年度から、「キャリアプランシート」を導入しました。5年後、10年後の自分がどうありたいかを考えてみようというものです。社員に書いてもらって提出してもらっています。当然、「先のことまではわからない」というメンバーもかなりいます。しかし、「今の部署でこういう活躍をしたい」「別部署に変わって、こういうことにも挑戦したい」など、色々とみんな考えているなというのが見えてきました。役員と管理者で役割分担して、そういう声の上がったメンバーと面談もしています。実際にチャレンジする機会を作って、今後キャリアチェンジやキャリアアップができるかどうかを見ています。──素晴らしい取り組みですね。従業員の方が何をやりたいかに目を向けることは、リスク回避にもつながりますし、社員の方々にも多くの機会が増えるのではないでしょうか。長澤様:社員側からも、「こういう場で改めて10年後どうなっていたいかを考える機会になりました」という声がありました。それだけでも効果はあったのかなと思っています。会社の理念や考え方──今のお話を聞くと、貴社の「65歳役員定年制」のルールにつながってくるように感じます。改めて、どういったルールなのか教えていただけますか。長澤様:社員については、今の法律に則って定年制があります。役員に関しては、法律上は制限がないので、やる気になれば何歳までも続けることができます。ただ、創業時に誰か一人の絶対的なオーナーがいる会社ではない形でスタートしたので、今後も誰かだけが絶対的に引っ張っていくのではなく、「君たちが将来、この会社を支えていかないといけないんだよ」ということを、役員側から明確にするという意味で、役員も65歳でみんな退任すると決めました。「それまでに君たちも役員になれるように頑張りなさい」というメッセージです。もう一つ、創業メンバーに雑談で聞いた話ですが、ベンチャー気質の会社で色々なことをやるには、決断をスピーディーにやらないといけない。年を取ってくると、だんだんそういう判断ができなくなる。だから、現実的に考えても、65歳ぐらいで引退という風にした方がいいと、このルールを作った役員たちは考えていたそうです。──創業メンバーがいらっしゃらなくなったところではありますが、会社としての考え方、仕事への向き合い方はしっかり継承されているように感じます。長澤様:広報資料に「若手にもチャンスを」という文言を書いたことがあるのですが、最後の創業メンバーから「それでは意味が違うぞ」と言われました。「チャンスなんて言うほど、経営は甘くないぞ。やりたいからやれるようなものではない。自分たちがやっていかないといけないという、厳しく言うと覚悟を持ってもらいたいんだ」と。──それはすごく理解できますね。そういう思いも込められているのですね。長澤様:はい。100年企業を目指すという目標がありつつ、現状で自分たちは何をやっていけばいいのか。新しいルールや最適解を作っていく必要があると考えています。──会社の中で重視されている理念や考え方、価値観について教えてください。長澤様:経営理念にもなりますが、お客様との信頼関係を壊すようなことは絶対にやってはいけない。それを築いていく、強固にするために、自分たちだったらどういうことをやれるのか、やるべきなのかを常に考えていく。それが考え方のベースにあります。──常にお客様のことを考え、意識した上での仕事になっているかどうかということですね。長澤様:はい。言うのは簡単ですけどね。私も以前営業だった頃があるので、正直「この要求は厳しいな」と感じる事もあります。そういう中でも、「これはできないけれど、どうやったら満足してもらえるか」ということをポジティブに、前向きに考えていく。その際のベースにあるのが、お客様のことを意識した上で生まれる信頼関係だと思います。──これは社内の皆さんも意識されている部分なのでしょうか。長澤様:自慢になりますけれども、よく定着しています。階層によって現れ方は変わりますが、私たちは反応の早さが求められる商売をやっています。例えば、今日の17時ぐらいに来た注文であっても、事務所で受注の処理をして、現場が加工して商品を作って、出荷して翌日に届けることが多いです。納期的に厳しい案件もありますが、社員たちも「これは大変だ」という意識をしっかりもって対応し、腹をくくって取り組んでくれるような、そういう空気がありますね。──達成意欲が皆さん高く醸成されているのですね。長澤様:自然と身についた意識だとも思います。これは創業の頃からの環境や文化の影響ですね。こういう環境で育つと、だんだん「仕事はそういうものだ」という風になってきて、幸いにもそれが順々に受け継がれていると思います。──理念浸透に苦労されている企業が多い中で、仕事の中で理念を感じる瞬間があるからこそ、皆さんの意識が途切れることなく続いているのだと感じます。長澤様:私自身は2002年に入社して、この2025年で23年になります。入社した頃はまだ社員数が37名の会社だったので、本当に現場も上司も経営者も社長も、みんなそばにいるような環境でした。だからこそ、会社の考え方を誰もが感じやすい環境だったのは大きかったと思います。そしてその考え方が当時の社員に浸透していたからこそ受け継がれているのだと思っています。もう一つは、私たちの商売形態の特性上ですが、新規顧客をどんどん獲得していって数字を取っていくという環境ではないのです。限られた市場なので、決まった顧客からの継続的な注文がベースになっています。そうすると、事務所でも「この間はありがとうね」という声を直接聞けたり、やり取りの中で「この間はちょっと無理を聞いてもらったから、今日は無理しなくて大丈夫です納期をもらうようにするよ」というようなことをおっしゃっていただいたり、このやり取りが日常的にあるような環境になっているんです。──直接そういう声が届くからこそ、顧客に意識が向き続けるという部分も大きいのですね。長澤様:そうだと思います。ただ、規模がだんだん大きくなってくると、それだけではなくて、やはり計画的に浸透させるということをやっていかないといけないという段階になっていると思います。今までは、色々な声や周りの環境の中で、学びを身につける機会がたくさんあったということです。会社の歴史・転換点──考え方が浸透していて、皆さんの業務に向き合う姿勢も素晴らしいと感じています。その中で、会社として成長してきているわけですが、大変だったことや、全社一丸となって乗り越えたエピソードがあれば教えてください。長澤様:こういった話をよく聞かれるのですが、創業の最初の頃のメンバーが言うには、大変だったけれど、あまりそれを苦労だとか辛かったという風には感じなかったそうです。経営的な部分で言うと、大変だったのはやはりリーマンショックのところです。実際に売上規模が前年の3分の1くらいになりました。正社員は残りましたが、派遣さんは契約満了をもって終了という形にしたり、事務所の方も工場も残業なしで終わらせたりするような、限られた環境下でやっていくのは非常に大変でした。──その環境下でも巻き返すことができたのですね。長澤様:そうです。社員は残しましたし、そういう環境下であっても、設備投資はコンスタントにやってきました。これは結果として、リーマンショックから市場が1年ぐらいで回復という時期に、設備も人員もあったので対応ができて、ちゃんと波に乗れたということがあります。──当時の経営層の皆さんは、ちゃんと先を見越してやられていたのですね。長澤様:実は前社長で最後の創業メンバーが退任するにあたって、現社長との対談をやってもらいました。その時にリーマン・ショックの話に触れてもらいましたが、「もうどうしようもなかったんだよね。だからやれることをやるしかなかった」と話していましたね。当時は私もまだ営業の担当だったので、「この先、大丈夫かな」という想いの方が正直強かったですが、やれることはやる、それでもダメだったらもうしょうがない、それぐらいの覚悟を持っていたということだと思います。活躍する社員について──若手の育成も取り組まれている中で、現状活躍している社員の方々に共通しているところがあれば教えてください。長澤様:やはり、冒頭の次世代リーダーのところでもありましたが、新しいことはとりあえずやってみる、やってみたい。というような、そういう人材が結果的には活躍していますね。私たちの会社の成り立ちから考えても、明らかにそれはダメだろうとか、考え方が甘いよというものは突き返しますが、「こんなことをやってみたい」「やって欲しい」ということを「ちょっとやってみようか」みたいな感じで進めていく文化があります。その中で、自分自身がやっていきたいこと、こんな風に考えているということをちゃんと発信できる人は、やはり活躍につながっていると思います。──長澤さまにもやりたいを実現したエピソードがあれば教えてください。長澤様:私たちの会社は、メーカーさんから材料を仕入れて、要望のサイズに切って削ったりして販売するということをやっています。野菜でもそうでしょうけれども、最初は〇〇産というのが分かっていても、だんだん切って細かくなって、残ったものが「これはどこの産地の材料か」というのが、当時はなかなか分からなかったんです。ただ、市場の要求で言うと、「どこのメーカーの材料か」というのをちゃんと証明した材料を納入しなさいという要請が昔からニーズとして少しありました。そこで、「今市場は材料の生産元を気にするようになっているので、なんとかこの要望に応える方法を作りませんか」と私が提案したことがあったのですが、最初社内では「うちの材料でそんなことはできない」と、突き返されてしまったんですね。その後も、お客様からの要望があるたびに私が何回も言うものだったから、「じゃあまずは部分的にやってみよう」という感じで動きが始まりました。それだけがきっかけではないでしょうけれども、結果的には色々とやり方が進化して、今は私たちが出す材料は本当に小さなちょっとした材料でも、すべて「これはどのメーカーのどのロットの材料です」というのが証明できる形になりました。──それは、長澤様ご自身も何回もぶつかりに行って提案をして、改善を実現したというエピソードですね。長澤様:正直に言うと、お客さんからの要望をストレートにぶつけていただけです。最終的なエンドユーザーは結構大きい会社が多いので、「ちゃんと証明された材料を持ってこい」というのを、お客さんも先のユーザーさんから強く言われていたのだと思うんです。だから私たちのところにも、そういう要求がどんどん来るようになる。だったら、これになんとか対応する方法を考えていかないとダメなんじゃないかという思いでした。──最初は受け入れられていなかったところを実現するところまでやるのは、相当苦労もあったと思います。長澤様:そうですね。具体的には、現場側が「こういうやり方だったらやれそうですね」という形で考えてくれたので、ありがたかったです。私の力だけではありません。みんなが「重要なんだな。これは厳しいけれど、このやり方ならできるかもしれない」ということを考えてくれて、結果として形になって、今はもう標準のサービスになっています。会社の事業について──事業についても少しお聞きしたいのですが、主力とされている事業について教えてください。長澤様:商材で言うと、主力はアルミニウムの板です。あとはステンレスの板とか、アルミの丸棒や銅の板などもあります。これを単純に仕入れて売るだけではなく、ご要望のサイズに、1個からでも切ったり削ったりして、精度の要望があれば削って精度を出して販売するということをやっています。──様々な加工や要望に対応されているということですね。長澤様:基本的に私たちが供給するのは、材料で言うと厚み、幅、長さという三寸法を決めたブロック状のものを、その先の細かい部品加工をされる会社さんに納入するという形です。圧倒的に多いのは、半導体を作る装置、製造装置の筐体の部材に使われているケースです。その半導体市場の成長に伴って、私たちもずっと成長し続けることができました。未来への取り組み・今後の展望──今後、新しく取り組んでいこうと考えていることがあれば教えてください。長澤様:事業的な部分で言いますと、これまで私たちは、材料を6面体に仕上げるところまでが私たちのドメインでしたが、もう少し先の加工まで、穴を開けたり、切り欠きを切ったりというところまで、私たちの方でやっていくことも考えています。というのも、部品加工屋さんにとっては、そういう簡単な加工はあまり大きな利益になりません。どちらかというと、そういう加工は町工場のようなところでやっていたのですが、だんだんその工場も少なくなっていく流れになっています。だったら、その加工は私たちがやって、部品加工屋さんには、もっと付加価値の高い高度な加工に取り組んでもらえば、共存共栄の形を作っていけるのではないかと思っています。──担当する領域が少し変わってきそうですね。長澤様:全く違うことをやっていくというのは、今のところあまり考えていません。ただ、私たちがどこまでやるのがお客様のメリットなのかということを考えた上で、もう半歩ぐらいは前まで出てもいいのかなと思っています。組織面で言うと、今時の話になってしまいますが、やはりDX化は進めないといけないと考えています。少量多品種という中で、どうしても人海戦術になっているところが大きいです。ただ、今後を考えた場合には、そもそも人が集まらないというところもありますし、コスト競争力という点で考えても、何かやっていかないといけません。なかなか難しいですが、今やれるところからでも、少しずつDX化を進めていこうということで取り組んでいます。──人材面ではいかがでしょうか。長澤様:採用が難しいというところの延長線上で、せっかく縁があって入社してくれた社員が、ちゃんと定着して戦力となり、将来的には会社を背負っていってもらえるように育てていく、ということをやっていこうと考えています。そういう中で、先ほど申し上げた人事制度の部分を見直さないと、なかなかそういうことがやれないと考えているところです。──創業者から体制も変わって、これから事業の中身も、人のところも変化していくと思います。長澤様:事業の拡大・継続、そして65歳の役員定年制という部分で、次世代を育てていくという考え方の根本にあるのが、私たちの会社が100年企業を目指すということです。単純に長く続けばいいということではないでしょうけれども、会社が一度できると、そこに関わる会社や人はものすごい数になってきます。だとしたら、会社が一度生まれて世の中に出たからには、やはり残していかないとダメなんだというのが根本的な考え方にあります。そのために、どうやったら存続・継続ができるかを考えて、色々と取り組んでいきたいと思っています。