カイシャの育成論──最初に、現在貴社が人材育成において最も注力されている独自の取り組みについて詳しく教えてください加治屋様:当社には「自らの成長意欲」「チャレンジ精神」「プロフェッショナリズム」という3つを軸とした教育方針があります。これに基づき、入社時のオンボーディングから専門スキル向上まで体系化していますが、今最も熱を帯びているのが、昨年度から導入した「Horizontal MTG」です。この研修は、代表の「社員に特別な体験をしてほしい」という思いから始まりました。目的は、部門や立場を超えたメンバーが対話と体験を通じて視野を広げ、共創力を育むことです。 ──「人生に一度しかないことを企画する」というテーマは非常にユニークですね。具体的にどのようなメンバーで、どのようなプロジェクトが進められたのでしょうか深澤様:初年度の選抜メンバーは、東京、静岡(三島)、長野、九州(大分)という全国各地から集まった5名でした。営業の私ともう一人の営業メンバー以外は、普段リモートで黙々と作業をする控えめな技術者やデザイナーたちです。最初のオンライン会議では、私が何を問いかけても反応が薄く、チャットも誰かがスタンプ一つ帰ってくる、もしくはコメントが一人から返ってくればいいという状況で、正直「これは盛り上がるのだろうか」と大きな不安がありました。日程調整だけで3週間もかかるような状態でしたが、私は「自分がリーダーシップを執るしかない」と覚悟を決め、まずは全員が納得感を持てるよう、場所の候補出しややることの精査、合意の確認、予算配分や交通費の調整等を地道に行いました。 ──その状況をどのように打破し、1泊2日の旅を作り上げていったのですか?深澤様:全員の「未知の体験」を求めて、最終的に「東京」を拠点にすることを決め、まず「国会議員会館での議員の方々との打ち合わせ」を企画しました。私は前職等の繋がりで議員の方々に人脈があったのですが、他のメンバーにとっては未知の世界です。当社の「IPアドレスから位置情報を特定する技術」が、地方創生やサイバー犯罪対策にどう役立つのか。現場の技術者が、実際に政策を作っている先生方に直接プレゼンし、意見を伺う場を作りました。1日で5名の議員の方々にお会いするというハードなスケジュールでしたが、デジタル政策の第一線にいらっしゃる方々が「ぜひこの技術を使いたい」と真剣に興味を持ってくださる様子を見て、普段は寡黙なリモートワークメインの長野や九州のメンバーも、自分たちが作っているプロダクトの価値を肌で感じていたようです。 ──技術者の方が国会議員と直接対話するというのは、まさに「人生に一度」の体験になりそうですね。その後の親睦についてはどうでしたか?深澤様:議員会館での緊張感ある時間の後は、5人で本厚木の宿泊施設にレンタカーで移動し、あえて自分たちで料理をする「焼肉セット」を夕食に選びました。驚いたのは、オンラインでは全く喋らなかったメンバーが、焼肉の話題になると急に個性を出し始めたことです。「自分は料理をしないからハサミなら使える」という女性デザイナーがハサミで肉を切り、料理経験のある男性社員がフライパンを振るう。そんな小さな役割分担から笑いが生まれ、一気に団結力が高まりました。その夜はサウナを楽しんだり、人生ゲームで将来を語り合ったりと、オンラインでは絶対に不可能な濃密な時間を過ごしました。 ──体験を通じて、心の壁が溶けていったのですね加治屋様:会社としては、予算の使い方から企画まで、あえて詳細には感知しないようにしていました。自分たちで計画し、成功させるプロセスそのものが、自立したプロフェッショナルを育てる近道だと信じていたからです。結果として、深澤の強力なリーダーシップのもと、想定を遥かに上回る成果を報告してくれました。 会社の理念や考え方──貴社がこれほどまでに「個の主体性」や「体験」を重視される背景には、どのような理念があるのでしょうか加治屋様:当社の企業理念には「地域社会にとって価値のある、新しいインターネットサービスを提供する」というものがあります。これを実現するには、ただ技術に詳しいだけでなく、その技術が社会のどこで、どのように役立っているのかを多角的に捉えられる人材が必要です。 深澤様:代表は社員に対して「現状に満足せず、新しい景色を見てほしい」という期待があると感じます。Horizontal MTGも、単なる親睦会ではなく、ビジネスの最前線と現場の技術を繋ぎ、思考の枠を広げるための多重的な設計になっていました。 ──理念が研修の細部にまで宿っているのですね深澤様:特に「IPアドレス」という目に見えない技術を扱っているからこそ、実際に地域を回り、位置情報の精度を検証するといった「現場感覚」を得られることは今回の「Horizontal MTG」にて多くの気付きも得られましたし、今後の開発の課題も見ることができました。研修の中でサービスエリアに寄り、端末ごとに位置情報のズレを確認したことも、理念に紐づいた立派な「学び」の一環になったと感じています。 会社の歴史・転換点──創業25周年とのことですが、現在の育成体制に至るまでの変遷を教えてください加治屋様:当社の代表は若手起業家支援などを行っておりますが、社内の研修制度を本格的に作り込み始めたのは、ここ数年のことです。以前は、背中を見て学ぶという側面が強かったのですが、上場を経て組織が拡大し、さらにリモートワークが普及したことで、以前のような「自然なコミュニケーション」が難しくなったことが大きな転換点でした。 ──リモートワークの弊害が、新しい研修を生むきっかけになったのでしょうか加治屋様:そうですね。顔を合わせる機会が減ったことで、部署間のセクショナリズムや、若手の孤立化という課題が浮き彫りになりました。そこで、あえて「対面で、かつ共通の困難(企画・運営)を乗り越える」場を作る必要があったのです。 ──実際にはどんな会話があったのでしょうか深澤様:今回の研修中、品川へ向かう車内という狭い空間で5人が膝を突き合わせた時、普段は絶対に言えないような現場の本音や課題が次々と溢れ出しました「当社のPDCAはP(計画)やC(評価)をもっと強化する必要があるのではないか」といった、組織の急所を突くような議論です。普段は黙々と作業をしている技術者が、「もっと生産性のある建設的な話を増やしたい」と熱く語る姿を見て、この研修の価値は、この「車中での本音の対話」にも多くあったように感じています。共通の課題認識を持てたことは、メンバー全員にとって大きな安心材料になったはずです。 活躍する社員について──このような社員主体の活動をする中で、どのような人材が評価され、活躍されているのでしょうか深澤様:自ら手を挙げ、周囲を巻き込んでいける人材だと思います。今回の研修でも、私が議員さんの調整から予算管理までを率先して行いましたが、そうした姿勢を見て他のメンバーも「自分はこれをやる」と役割を見つけ始めました。最終的には、誰もが自分の強みを活かせる環境があります。 ──誰もが強みを活かせる制度があるのでしょうか加治屋様:「みらそうプロジェクト」という社内公募体制があります。これは、社員の「ひらめき」を事業化したり、業務効率化の提案をしたりする制度で、半年の期間をかけて審査を行います。驚くべきことに、正社員だけでなくパート社員の方々からも積極的な応募があり、中には一人で5件もの提案を送ってくださる方もいました。勤続年数や立場に関わらず、「会社をより良くしたい」という意思を持つ人が活躍できる舞台を整えています。 会社の事業について──改めて、貴社の事業内容と、それが育成にどう影響しているかを教えてください加治屋様:私たちはIPアドレスを活用した位置情報特定技術を核に、マーケティング支援やサイバーセキュリティ対策を提供しています。この技術は非常に専門性が高く、かつ常に進化し続ける分野です。 深澤様:研修でも「実際に自分の技術が世の中でどう使われているか」を確認することを重視して今回企画をしました。研修の帰り道に、羽田空港や横浜のみなとみらいを回りながら自社サービスの精度を確認したのですが、こうした実地検証を通じて、技術者は「自分の仕事が誰の役に立っているのか」を再認識します。これが、日常の業務に対するプロフェッショナリズムと誇りを醸成していると感じています。 未来への取り組み・今後の展望──これから挑戦したいことや、教育面での新たな構想はありますか?加治屋様:現在、採用を大幅に強化しており、新たな目玉として「3ヶ月間の三島本社研修」を組み直しています。東京や福岡のメンバーも一度三島に集まり、創業の地で会社の価値観や技術の基礎をみっちりと叩き込む。そこで生まれる「同期の絆」や「会社への帰属意識」が、将来の組織を支える土台になると確信しています。Horizontal MTGも、今回の成功を受けて継続が決まりました。次はメンバーを入れ替え、さらに新しい化学反応を起こしていきたいと考えています。今度はどのメンバーがリーダーシップを発揮するのかどんな役割になるのか、非常に楽しみです。組織に「横の繋がり」が生まれれば、個人の生産性は必ず上がります。