カイシャの育成論──貴社の組織改革について教えてください。前澤様:当社は2015年に「バリフラットモデル」という、階層や役職を一切なくすという組織改革を行いました。当時は300名ほどの規模で、部長、課長といった典型的なヒエラルキー型の組織でしたが、それを一気にフラット化しました。実は私、その当時20代でようやく課長になったばかりでしたが、すぐ役職がゼロになり、最も変化に対応する必要があったのは私自身だったかもしれません。正直なところ受け止めるのに少し苦労しました。 ──そんなリスクもありながら改革の背景にはどのような課題があったのでしょうか。前澤様:組織が徐々に硬直化してきたという課題もありましたが、最も大きかったのは、当時の経営メンバーから「管理職の仕事の割合が増えて、本来やりたい仕事ができなくなっている」という声が出始めたことです。プレイヤーとして非常に優秀だった人がマネージャーになると、マネージメント業務に特化せざるを得ず、プレイヤーとしての業務は手放さなければなりません。そこで、一度管理職的な業務をなくしてみたらどうなるのか、と試してみることにしたのです。 ──実際の効果はいかがでしたか。前澤様:効果は顕著でした。まず、元マネージャー陣がプレイヤー業務に戻ったことで、非常に高い成果を出し始めました。また、レポートラインがなくなったことで、報告のための無駄な時間が大幅に削減され、残業時間が平均30時間程度あったものが、一気に10時間程度まで減少しました。一方で、想定外だったのは若手社員が困惑したことです。新卒や入社したばかりの社員が「トラブルが起きた時に誰に相談すればいいのか分からない」という状況に陥りました。そこで、上司部下という関係性ではない形で、コーチやメンターという役割を設けてサポートする仕組みを導入しました。 ──コロナ禍ではどのような変化がありましたか。前澤様:2020年の緊急事態宣言で、ほぼ全員が一気にリモートワークに移行しました。ただでさえレポートラインをなくして階層も管理もしていない状況で、リモートワークで全員がバラバラになった時に、さすがに状況が把握できなくなりました。当社には「Goalous」という目標を掲げて日々の活動を共有するツールと、「Colorkrew Biz」という誰がどこで働いているかを把握できるツールがあったため、何とか支えられました。これらのツールなしにフラットモデルを実行していたら、組織として機能しなくなっていたと思います。それでもインシデントが発生し始めたため、それぞれの役割を明確化する必要があると判断しました。ただし、これは上司部下という権威的な関係を作るのではなく、「この領域は誰が責任者なのか」ということだけを明確にするものです。 ──現在の働き方と自社プロダクトの活用について教えてください。前澤様:現在は等級制度を設けており、ジュニアレベルに関しては週3回出社、それ以上のレベルは週2回出社という形にしています。ただし時差出勤も認めており、半日の出社でも構わないという柔軟な運用をしています。特別な事情がある場合は、兵庫、滋賀、新潟、栃木などから月1回だけ出社すればよいというメンバーもいます。このような柔軟な働き方は大きく3つのプロダクトで支えています。1つ目が「Colorkrew Biz」です。オフィスマップ機能で、誰がどこで働いているかが一目で分かるようになっています。当社はスイスとアメリカにもメンバーがいますので、夜中に画面上で光っていると「働いているんだな」と分かります。Microsoft Teamsのプレゼンスと連携して、グリーンバッジがついている人は「連絡可能」という状態が分かるようになっています。わざわざ席まで行って声をかけるより、むしろハードルが低いのではないでしょうか。また、コロナ禍で「マスクをしていたので素顔を見たことがない人がいる」という若手の声があり、顔写真の掲載を強く推奨しています。2つ目が「Goalous」です。それぞれが目標を掲げて、日々の活動をオープンに共有するツールです。例えば、滋賀県から月1回だけ出社しているメンバーは琵琶湖の近くに住んでおり、ストレスも軽減されています。そんな彼が何をやっているかが、このGoalousで分かるようになっています。5年前からブラジルにも展開しており、真逆のタイムゾーンでも、このツールによって距離を超えて協働できています。目標設定については、現在は各リーダーがチームごとに話し合って決めています。チームとしてのトップゴールに加えて、そのチームに属する個人がどう貢献するかを示せる仕組みです。進捗は定量的な基準と明確なゴールを設定するようにしています。3つ目が「Colorkrew Intra」です。これは次世代のポータルサイトとして位置づけています。コロナで何が起きたかというと、必ず全員が見る会社の入り口や突然なくなったり、大事な情報が共有される対面朝会の慣習が変わってしまったのです。働く場所が分散され、使用するツールもコロナ前後で大幅に増加しました。中小企業では平均10個程度だったツールが40個に、1000名以上の規模では100個以上になっているという状況です。新しい会社の入り口として、全ての仕事をここから始められるというコンセプトでポータルサイトを提供しています。会社の理念や考え方──貴社が大切にしている理念について教えてください。前澤様:当社のミッションは「Color Your Work with Excitement」です。また、行動指針の中で「オープン」であることと、お互いを「リスペクト」することを非常に大事にしています。以前は「バリフラットモデル」をかなり前面に出していましたが、「上司から命令されることなく、ストレスもなく、自由に働ける」という誤解を招いたため、最近は少し抑えています。命令や指示ができないという前提は変わっていません。「これをやるべきだよね」とメンバー間で合意しないと進まない。ですから、リーダーがいても案件が宙に浮いてしまうこともあります。例えば、飲み会の幹事なども誰も引き受けなくなってしまい、結局シニア層が担当するようになりました。しかし、これは教育上望ましくないと判断し、あえて毎週金曜日の会社イベントの幹事を若手に割り振るようにしています。(現在は月に1回)人を強制するよりも、その人が最もモチベーション高く取り組める手段を支援し、エラーが起きた時に助けるという方が、本人の力が発揮されると考えています。会社の歴史・転換点──貴社の歴史について教えてください。前澤様:当社は1999年に、現在のSCSKとゲーム会社のセガのジョイントベンチャーとして、株式会社ISAOという名前で創業しました。当時はISDN時代で、Yahoo!のトップページを開くのに数十秒かかるような時代です。しかしISAOの 創業者が「ゲームはインターネットでやる時代になる」と言って、プロバイダーから作り始めました。当社は、ゲーム会社がインターネットでビジネスを展開するために必要な裏側の部分を全て担っていました。2010年に豊田通商に売却され、現在の代表である中村が出向してきました。これが第一のターニングポイントです。中村が新しいミッション・ビジョン・バリューを策定し、2015年のバリフラットモデル導入へとつながりました。現在は、2019年に豊田通商からMEBOし独立をし社名を株式会社Colorkrewに変更を 活躍する社員について──貴社で活躍する社員について教えてください。前澤様:やはり、自律的に動ける方です。指示系統に従って仕事をするスタイルに慣れている方は、当社ではやりづらいと感じるかもしれません。人の欲求に向き合って対処していくというのが当社のスタイルですので、それを面倒だと思わない方が向いています。当社は日本国籍を含めて18国籍、100名の組織で、スイスとアメリカにもメンバーがおり、非常に多様性に富んでいます。「Goalous」で目標と活動を共有することで、距離を超えて協働できています。会社の事業について──貴社の事業について教えてください。前澤様:当社は「Work SaaS®」というコンセプトで、働き方や働く環境を向上させるツールを提供しています。効率化と活性化の両面から、仕事のマイナスをプラスに、プラスを最大化することをツール側で意識しています。一般的なSaaSは、市場規模があって、それに対して差別化して何パーセントのシェアを取るという考え方で事業計画を立てます。しかし当社は異なります。顧客の生の課題やニーズから成し遂げたいことがあり、それを実現するためにはこういうツールが必要だ、という順番で考えています。今存在しないものを作るので、正直に申し上げて信じてもらうしかない部分もありますが、結果を出しているので、徐々にメンバーも理解してくれるようになったと感じています。未来への取り組み・今後の展望──今後の取り組みについて教えてください。前澤様:現在、そして今後の最大の鍵は、やはりハイブリッドワークです。コロナによって、テレワークができる環境が突然20〜30%から60%になり、そこで発生した課題に対して世の中全体がまだ答えを出せていない状況だと考えています。コロナが発生して5年半が経ちましたが、まだ働き方が成り立っていません。当社は自社のサービスと働き方を調整していくことで、ロールモデルを作っていきたいと考えています。ハイブリッドワークには、様々な組み合わせがあります。固定の曜日出社、週に何回か出社、時差出勤OK、半日でもOKなど、頻度とバランスの組み合わせを自分たちで試しながら、最適解を探っています。仕組みのハード面は当社のツールで整え、ソフト面は現在いるメンバーのマインドを整えていく。ただし、当社として成し遂げたいミッション・ビジョン・バリューは大切にしています。──最後に、読者の方へメッセージをお願いします。前澤様:当社の取り組みは、正直に申し上げて手間がかかります。人を強制せず、それぞれの欲求に向き合って対処していくというのは、容易ではありません。しかし、その方が本人の力が最大限発揮されるのです。コロナ後に発生した、誰も解決できていない課題を、一つ一つ丁寧に解決していく。そうやって試行錯誤しながら、新しい働き方を実現していくことが、これからの時代に求められているのではないでしょうか。「Color Your Work with Excitement」。それが当社のミッションです。新しい働き方を一緒に作っていきましょう。