カイシャの育成論──現在、貴社で最も注力されている人材育成の取り組みについて詳しく教えてください。高橋様:当社が約4〜5年前から導入し、現在もブラッシュアップを続けているのが「5スター制度」というクルー(アルバイト)向けの評価制度です。本人の成長度合いに応じてランクが上がっていく仕組みになっています。このスターの数は単なる飾りではなく、時給とも密接に紐付いているため、自分自身の成長がダイレクトに給与という「目に見える成果」に反映される設計になっています。──この制度を導入した当初、どのような課題を解決したいと考えていたのでしょうか。高橋様:以前の当社には、人材育成における明確な「指標」が存在しませんでした。指標がない中で「もっと頑張ろう」と声をかけても、スタッフは何を目指せばいいのか迷ってしまいます。指標がない状態での努力と、明確なゴールがある状態での努力では、成長の質もスピードも全く異なります。だからこそ、頑張っている人が正当に評価され、成長を実感できる文化を作りたいと考えたのが導入のきっかけでした。実際に導入してからは、やるべきことが言語化・可視化されたことで、個々のポテンシャルに頼るマネジメントから、具体的なアドバイスに基づいたシステマチックな育成へと進化しました。──評価の基準は、具体的にどのような項目で構成されているのですか。高橋様:ここは時代とともに大きく変化してきました。当初は「料理のクオリティ」や「マニュアルの遵守」といった、いわゆる作業面の評価が中心でした。しかし、約1年前に会社のミッションやバリューを再定義した際、評価項目も大幅に刷新しました。現在、最も重視しているのは「人間力」や「飲食人力」という項目です。飲食店として、お客様に喜んでいただくために「何のためにこの行動をするのか」という本質的な問いを、具体的な評価項目として落とし込んでいます。──「5スター」への挑戦は、どのように行われるのでしょうか。高橋様:本人の立候補、または店長からの推薦によって試験が行われます。以前は「どれだけ多くの人を挑戦させられるか」というチャレンジ率を計測していた時期もありました。基本の評価制度も3ヶ月間のパフォーマンスで評価を判断します。「その日だけ頑張る」のではなく、「高い基準でやり続けること」こそがプロの仕事であると考えているからです。──現場での教育や、不合格になった後のフォローについても教えてください。高橋様:評価が「✕」だった項目については、店長が本人と向き合い、「どうすれば次は◯になるか」を徹底的にすり合わせます。つまり、評価制度がそのまま店長とクルーの「伴走型コーチング」のツールになっているのです。また、最近では社員の評価項目もクルーと同じ基準に統一しました。アルバイトだから、社員だからという境界線をあえて取り払い、高い志を持つ全てのスタッフが同じ山を登れる環境を整えています。実際に、この制度を通じて自信を深め、アルバイトから社員へと登用されたメンバーが複数名誕生しています。会社の理念や考え方──貴社が大切にされている理念について教えてください。高橋様:当社の最上位概念として掲げているのは「より多くの人の笑顔のために」という理念です。これは、外部のコンサルタントの方にも入っていただき、我々幹部陣が「エムシスらしい言葉とは何か」について、一言一句のニュアンスに至るまで何度も壁打ちを繰り返し、約1年をかけて練り上げたものです。──理念を策定するだけでなく、浸透させるためにどのような工夫をされていますか。高橋様:理念をただの「お題目」にしないための最大の工夫は、先ほどの「5スター制度」の中に理念を体現するための行動指針を組み込んでいる点です。上位のスターを目指して挑戦すること自体が、自然と理念を体現することに繋がるように設計されています。また、現場の店長たちには、指導の際にあえて理念やバリューに含まれるキーワードを使うよう推奨しています。──理念が浸透している店舗とそうでない店舗では、どのような違いが現れるのでしょうか。高橋様:明確な違いが出ますね。理念に基づいた一貫性のある指導ができている店舗は、スタッフ同士の「チームビルディング」が非常に強固です。その結果として、売上の向上はもちろん、離職率の低下や、さらにはスタッフが自分の友人を誘ってくれる「リファラル採用」の活発化といった好循環が生まれています。従業員満足度が上がれば、比例してお客様満足度も上がる。この循環を数字だけでなく、現場の活気として肌で感じられるようになっています。会社の歴史・転換点──現在の組織文化が形成されるまでに、どのような試行錯誤があったのでしょうか。高橋様:過去に大きな転換点となったのは、組織マネジメントの手法として外部の研修を取り入れた時期のことです。当時はすべての成果を数値で測る「完全結果」の評価に集中しすぎたことで、飲食店として最も大切にすべき「数値化できない魅力」や「社内の活気」が削ぎ落とされてしまったのです。──数値管理を徹底したことで、現場にはどのような影響が出ましたか。高橋様:スタッフから「働く楽しさ」が失われていくのが目に見えて分かりました。現場が困惑し、以前のような脇目も振らない活気がなくなっていったのです。飲食店において、スタッフが楽しんでいない空気感はお客様に敏感に伝わります。この経験を経て、私たちは「管理の合理性」は残しつつも、エムシスが元来持っていた「人との繋がり」や「楽しさ」を軸に据えた現在のスタイルへと軌道修正を行いました。外部のメソッドをそのまま当てはめるのではなく、いかに自社の文化に馴染ませて「内製化」するか。その重要性を学んだ貴重な経験でした。活躍する社員について──貴社で目覚ましい成長を遂げる人材には、どのような共通点がありますか。高橋様:一言で言えば「素直さ」です。上司や店長のアドバイスに対して、たとえその瞬間に正解が分からなくても、まずはやってみる。自分の殻を破って新しい視点を取り入れられる人は、成長のスピードが格段に早いです。──これまでに、特に印象に残っているスタッフの成長エピソードを教えてください。高橋様:今でも活躍しているある社員がいるのですが、アルバイトから当社に入社して働いてくれています。アルバイト時代に実は、5スター制度の試験に5回連続で不合格になってしまうという経験をしました。当時は笑顔も少なく、接客レベルに関しても正直「このままではまずい」と感じさせる状態でした。しかし、彼女は決してめげませんでした。私も「次こそ合格しよう」と声をかけ続け、一歩一歩のスキルアップを共に確認しながら、6回目の試験でようやく合格を掴み取ることができたのはとても記憶に残っています。──その後の彼女は、どのように変わったのでしょうか。高橋様:合格した瞬間、何かが吹っ切れたようでした。その後彼女は社員となり、今では自らお店の活気を作り出し、店長を強力にサポートする主力メンバーへと見違えるような成長を遂げました。この事例は、本人が諦めずに挑戦し続けたことももちろんですが、教える側の人間も「この子はできない」と可能性を遮断せず、アプローチを変えながら信じ続けることの大切さを私たちに教えてくれました。店長が諦めなければ、人は必ず変われます。それを証明してくれた彼女には本当に感謝しています。会社の事業について──現在の事業展開と、今後の戦略について教えてください。高橋様:現在は主力である「焼きとん大国」に加え、伝統の味を継承する「元祖仙台ひとくち餃子 あずま」、そしてラーメン事業の「水原製麺」「もちだや」などを展開しています。また、自社工場も2拠点稼働させており、一貫した品質管理体制を築いています。2026年1月には岩手県盛岡市への新規出店も控えており、エリアの拡大も着実に進めています。──今後の展望として、フランチャイズ(FC)展開も見据えていると伺いました。高橋様:はい。「元祖仙台ひとくち餃子 あずま」業態のFC展開に向けて、現在は教育マニュアルの抜本的なブラッシュアップを行っています。従来の文字中心のものから、イラストを多用して直感的に理解できるものや、動画を活用したマニュアルへと進化させています。どの店舗でも、誰が運営しても「エムシスのクオリティ」を再現できる仕組みを整えることで、加盟店の方々が運用しやすいビジネスモデルを確立したいと考えています。──業態ごとに、教育のスタイルも変えているのでしょうか。高橋様:かつては全社一律の基準でしたが、現在は各ブランドの「コンセプト」に基づいた教育にシフトしています。例えば、圧倒的な活気が武器の「大国」と、幅広い客層に落ち着いてお食事をいただく「あずま」では、求められるパフォーマンスが異なります。それぞれのブランドの個性を最大化させるための教育体制を、今まさに構築しているところです。未来への取り組み・今後の展望──組織をさらに活性化させるために、今後どのような施策を予定されていますか。高橋様:最近実施して非常に手応えを感じたのが、新店オープンの際の「キックオフミーティング」です。全スタッフが集まり、お店の方向性や「どんな人材を求めているか」という意思の統一を図る場です。これを全社で定例化し、入店初日から全員の目線を揃える仕組みを作りたいと考えています。また、現在は「すごい会議」というメソッドを導入し、幹部から店長、さらには一般社員までをピックアップして、役職に関係なく意見を出し合う場を設けています。──現場の声を直接、経営や組織づくりに活かしていくのですね。高橋様:店舗数が増えれば、店長やSVといった新たなポストも生まれます。常に新しい挑戦ができるフィールドを用意し続けることが、社員のモチベーション維持には不可欠です。評価制度は今もブラッシュアップをしている最中ですので、常に進化し続けていきます。