カイシャの育成論
──最初に、現在の人材育成についてどのような取り組みをされているのか教えてください。
本山様:当社の育成施策は、稲盛和夫先生が提唱された「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という公式に沿って体系化しています。
「考え方」「熱意」「能力」の三軸それぞれに対応する施策を設計しており、研修だけでなく、面談や全社イベントまで含めて、すべてがこの三軸のいずれかに紐づく形で機能しています。
単なる研修体系ではなく、思想に基づいた育成設計になっています。
中でも当社が特に力を入れているのが、「考え方」を浸透させる場としての半期に一度の全社イベント「メッセフェス」です。
この日は16拠点すべてを一斉に閉店し、全従業員が一堂に会する場として位置づけています。
表彰式、内定式、新卒のオープニングアクト、当日の様子をその場で編集して流すエンドロール上映まで含む大規模な祭典で、最終的な企画はすべて役員の承認を経て決まります。
役員自らが一番本気で関わっているイベントです。

──店舗を閉めて全員を集めるという判断は、相当な覚悟がないとできないことですね。
吉田様:ここを妥協してしまうと理念経営は成立しないという結論に至ったのだと思います。
月次でも、社員・アルバイトが集まる集会を必ず開催しています。
その月の表彰者を発表したり、経営指針を体現したエピソードを共有したりする場で、月に一度、必ず理念に触れる機会が制度として組み込まれている状態です。
加えて、当社の特徴を語るうえで欠かせないのが、面談の頻度の高さです。
役員自らが、直属の部下だけではなく2階層下、3階層下、4階層下の一般社員にまで定期的に面談を行います。
これは当社らしさの根幹を支える仕組みだと考えています。
さらに特徴的なのが面談のフォーマットで、仕事の話から始めるのではなく、「心の状態は大丈夫ですか」「体は大丈夫ですか」「ご家族とは仲良くやれていますか」というプライベートの確認から入ります。
仕事は人生の一部ですから、その人の人生そのものが揺らいでいる状態で良い仕事ができるはずがない、というのが当社の考え方です。
理念に「全従業員の物心両面の幸福」を掲げている以上、面談もそこに直結する設計でなければ意味がありません。
役員方も、祝日の関係で面談日がずれてしまうと「今月、まだやれていないよね」とご自身から声を上げてくださるほど、本気で大切にされています。
──能力面の研修はどのように整えていらっしゃるのでしょうか。
本山様:階層別に三層で設計しています。
一般社員にはビジネスフレームワークを習得する研修、幹部層にはマネジメント研修、さらにその上の経営者育成の研修を用意しています。
特に幹部研修は外部のパートナーにご協力いただきながら、思考的な負荷をかなりかける形で運営しています。
具体的には、自分が普段考えていない領域、特に経営目線でのフィードバックがその場で飛んでいます。
「そこまで考えていなかった」という気づきが連続で生まれる設計で、新たな視点のインプットにもつながります。
研修の最後には必ずアクションプランを定め、翌日からの動き方を具体的に落とし込みます。
上が背中で示すと、下も自然と動き方が変わってきます。
これが当社の育成の循環です。
そのほか、若手にも安心して挑戦してもらえるよう、半期に一度の役割研修やキャリア面談研修も整えています。
昇進機会が豊富な反面、業務上の不安も生まれやすい環境ですので、その不安をできる限り取り除く仕組みを並行して用意しています。

会社の理念や考え方
──貴社が掲げる理念について、改めて教えてください。
本山様:当社の経営理念は「私たちは全従業員の物心両面の幸福を実現し、人類社会の進歩発展に貢献します」です。
盛和塾、稲盛和夫先生から学ばせていただいた言葉を、当社の理念として位置づけています。
経営する理由として最初に来るのが「従業員の幸福」だという順序を、私たちはとても大切にしています。
考え方をさらに具体的に落とし込むため、当社ではマズローの欲求5段階に独自に1段加え、6段階目として「自己特別欲求」を置いています。
心の豊かさは金銭的報酬だけでは満たされません。
仲間・お客様・地域に貢献できているという実感が湧くことが、人間にとって最も大きな幸福の源泉だと考え、その視点を6段階目として明文化しました。
理念の下には経営指針があり、そのさらに下に日々の行動指針を置く三層構造で運用しています。
行動指針の中で当社が最も大切にしているのが「明るく・楽しく・前向きに」です。
誰にでもできる、けれども毎日続けることが難しい当たり前の姿勢を、共通言語として組織に根付かせています。
収益や成果を行動指針の中核に置く企業様が多い中、当社はあえて「誰でもできること」を中核に据えました。
普遍的で、年齢も役職も関係なく実践できる指針だからこそ、組織全体が同じ方向を向けるのだと考えています。

会社の歴史・転換点
──現在の理念経営に至るまでには、大きな転換点があったと伺っています。
本山様:当社はもともと中古車販売の会社として始まりました。
当時から会長は人情に厚く、利益よりも地域のお客様を大切にする経営でしたが、その分、経営面では苦しい時期もございました。
その後、利益重視の経営を強めた結果、離職率が20%を超える時期がありました。
仲間を失い続けるという経験を通じて、経営の原点とは何かを問い直すことになりました。
このとき立ち返ったのが「家族や仲間のために経営する」という原点であり、稲盛和夫先生のフィロソフィーに役員一同が深く感銘を受けたことが、現在の理念経営の出発点です。
「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という公式を当社の育成体系の幹に据えたのも、この時期からです。
私たち2人は当時を直接知らない世代ですが、それでも歴史として語り継がれてまいります。
仲間を失った経験があったからこそ、今の役員方は「全従業員の幸福」をぶれずに掲げ続けていらっしゃるのだと考えています。
当社の「感謝とリターン」「恩返しと恩送り」という言葉も、こうした歴史を経た上で組織の根に下ろされた価値観です。

活躍する社員について
──貴社で活躍されている社員の方には、どのような共通点がありますか。
本山様:稲盛先生の公式どおり、「考え方×熱意×能力」のすべてが揃っている方です。
中でも前提として欠かせないのが「考え方」です。
明るく前向きで、謙虚で素直、感謝とリターンの気持ちを持っている。
失敗を学びに変えて次に活かせる方は、結果として能力もあとから伸びてまいります。
当社では採用の段階から、能力ではなく考え方を見ています。
「明るく前向きか」「謙虚で素直か」「『ありがとう』『ごめんなさい』を素直に言えるか」を最優先で見ており、能力面に焦点をおくことはありません。
だからこそ、入社後の育成で同じ方向を向いて走っていける組織が成立すると考えています。
印象に残っているエピソードもございます。
私が新卒採用を担当していた時、入社のタイミングで担当していた内定者から手紙をいただいたことがあります。
サプライズで、しかも普段そういうことを書きそうにない方からだったので、本当に驚きました。
「入社からがスタートですよ」と伝え続けていた準備の時間を、彼らがしっかり受け取ってくれていたと知り、採用担当として本当に良い経験をさせていただいたと感じています。

──ほかにも若手の挑戦を支える仕組みはありますか。
本山様:半期に一度更新される公募制の委員会と部活動があり、社員は自分の意思で参加先を選びます。
委員会は店舗業務と直結する課題を全社横断で解決する役割を担っており、店舗だけでは得られない視野の広がりにつながります。
部活動は1人あたり最大3つまで参加でき、当社から補助も出ます。
日常業務とは異なる人とのつながりを生む場として機能しています。
また、当社のサウナ事業は、もともとサウナを愛する一人の社員が「これを仕事にさせてほしい」と熱意をもって役員に直訴したことから始まりました。
自分の強みや好きなものを仕事につなげる挑戦が、結果として地域から愛される事業に育っています。
「自分で取りに行く」という社風が、こうした事例を通じて若手にも継承されている実感があります。

会社の事業について
──現在の事業構成について教えてください。
本山様:当社は16拠点を展開しており、エンターテイメント事業が現在の中核を担っています。
店舗を持つ事業ですので、社員一人ひとりが日々お客様と直接向き合います。
その現場でこそ理念が試される、という環境です。
地域に根ざした事業が多いので、「地域の方々が誇れる街にする」という視点も経営指針に明記されており、社員の働き方にも自然と地域貢献の意識が浸透しています。
役員方も現場に近いところにいらっしゃり、専務の宮本は毎週金曜日を店舗巡回の日と決めて16拠点を継続的に回っています。
役員が現場と同じ目線に立ち続けていることが、理念経営を実態のある形で支えていると考えています。

未来への取り組み・今後の展望
──これから注力したい育成テーマがあれば教えてください。
本山様:「考え方」と「能力」の双方で、まだ整えたい領域がございます。
考え方の側では、中堅層、特に長く同じ役割を担っていらっしゃる方々のキャリアの描き方を、より丁寧に支援する研修を構想しています。
半年に一度のアクションプラン研修だけでは届かない部分があるという実感がございますので、もう一段深く、本音でどんな人になりたいのかを描く場を設計したいと考えています。
能力面では、店長層に向けた業務の役割理解とマネジメント能力を高める研修を、より体系的に整える必要があると感じています。
階層の結節点に立つ方々ですので、ここが整うと組織全体の動きがさらに変わると考えています。
──最後に、社員の皆様にどのように成長していってほしいかをお聞かせください。
吉田様:「感謝とリターンの気持ちを忘れないでほしい」という一言に尽きます。
忙しくなったり成功体験を重ねたりすると、視野が狭くなり、周囲への配慮や謙虚さが薄れてしまう瞬間が、誰しもあると思います。
けれども、自分が今ここに立っていられるのは仲間のおかげであるという感謝、そして仲間・お客様・地域への恩返しと恩送りを忘れない心。
当社においては、この気持ちさえあれば人としても職業人としても必ず成長できる環境が整っています。
そして、その理念経営を支えているのが、何よりぶれない役員方の姿勢です。
専務の宮本がよく口にする言葉に、「僕のこの細胞は、お客様が入れてくださったお金と、みんなの頑張りでできているんだ」というものがあります。
自分が身につけているもの、食べているもの、生えている髪の毛の一本までもがお客様と仲間のおかげである、と本気で言い続けています。
役員自らがそう語り続けているからこそ、たとえ階層が離れていても、一般社員やアルバイトの皆さんにまで理念が浸透していくのだと考えています。
一人ひとりが、その軸を持ち続けながら成長していけることを願っています。
