カイシャの育成論──現在、人材育成についてどのような取り組みをされているのか教えてください。大牟禮様: 当社は介護事業を展開していますが、育成の大きな柱として、介護リーダー向けの研修にMBAのカリキュラムを取り入れています。月に1回、管理職をグループ分けして集合研修を行っています。──介護の現場にMBAのカリキュラムとは、非常にユニークで驚きました。なぜそのような研修を始められたのでしょうか?大牟禮様: 介護現場では、なかなかマネジメントを勉強しないまま中間管理職になってしまい、よく失敗してしまうという課題がありました。病院などでも同じだと思いますが、プレイヤーから管理職になる際に、研修がなさすぎるという問題を感じていたのです。私自身も、特に研修を受けることなくリーダーになったため、最初は「自然にできるものだろう」と思っていましたが、やはりマネジメントは難しいと痛感しました。そこで、5、6年前からこの研修をスタートしました。──実際に導入されてみて、管理職の方々の変化は感じられますか?大牟禮様: 明確な変化がありました。研修をする前までは、マネジメントというのは個人のセンスのように捉えられていたと思います。しかし、研修を通じて共通言語や、マネジメントにおけるお作法のようなものが生まれました。特に管理職同士の会話が共通言語で行われるようになり、悩みをシェアしやすくなったと感じています。介護施設は1店舗ごとに事情が異なり、どうしても孤独感を感じやすい環境ですが、同じ悩みを持っているのだという気づきを得て、シェアできる場になっています。──研修の具体的な期間やカリキュラムについても教えていただけますか?大牟禮様: 期間は半年で1クールという構成にしています。内容はロジカルシンキングやクリティカルシンキングといった思考法から始まり、マネジメント、アカウンティングなど、一周回るのに大体2年ほどかかります。最初は座学に近い形で学び、次のステップではグループワークを取り入れるなど、徐々に視点を上げていくようなステップアップの構成にしています。──MBA研修の他にも、AIに関する研修にも力を入れられているとお聞きしました。現場でここまでAI活用が進んでいるのは非常に興味深いです。大牟禮様: 最近は生成AIの勉強会に力を入れています。当社は元々、AppSheetなどのノーコードツールの勉強会を新人も含めて継続的に行ってきました。最近では、ChatGPTなどを単なる流行りとして終わらせず、社内の業務にどう落とし込むかを現場主導で考えてもらうような勉強会を行っています。──現場ではAIをどのように活用されているのでしょうか?具体的なエピソードがあれば教えてください。大牟禮様: 例えば、緊急時の患者さんの対応マニュアルなどをAIに読み込ませておき、必要な時に呼び出せるようにしています。また、音声入力を活用した記録業務の自動化は非常に効果が大きいです。利用者様と会話している内容をAIが項目分けして記録として入力してくれます。これまで残っていなかった細かな要望もデータとして蓄積できるようになり、傾向分析に活かせるようになりました。今後はAIエージェントのClaude Codeを全業務に適用すべく、ガリガリと開発を進めています。すでにClaude Codeを使ってコーディングできるスタッフが7、8人おり、介護施設における事務作業はほぼゼロにしていきたいと考えています。会社の理念や考え方──介護現場のスタッフの方々がそこまでAIを使いこなしているとは驚きです。貴社の大切にしている理念について教えてください。大牟禮様: 当社の理念は大きく2つあります。1つ目は、ご利用者様に主体的な人生を最後まで過ごしていただくこと。2つ目は、ケアスタッフがやりがい搾取にならずに、経済的にも豊かになることです。福祉業界は他産業に比べて平均年収が低い傾向にあり、私はこの待遇の悪さを解決したいと強く思っています。──待遇改善を実現するために、どのようなお考えをお持ちなのでしょうか?大牟禮様: 待遇の悪さを解決したいと思う反面、正直に言うと「勉強しないよね」「プロ意識が少ないよね」と、他業界と比べて感じてしまう部分もあるのです。ですので、当社の理念には隠れたワードとして「プロ意識を持って勉強し続ける」というメッセージが込められています。ケアスタッフが経済的に豊かになるためには、プロ意識を持ち、自分のために勉強し続けなければなりません。──プロ意識と学習意欲が待遇向上に直結するのですね。大牟禮様: 介護スタッフの給料を上げたいと考えた時、介護報酬は公定価格として決まっているため、介護の質を上げたからといって単価が上がるわけではありません。つまり、売上を劇的に伸ばすことは難しく、経費を削るしかありません。しかし、人を減らせば介護の質が下がってしまいます。そこで一番削るべきなのが、介護保険を運用するための大量のペーパーワークです。ここをデジタル化し、データ連携して自動生成することが最も効果が高いという仮説を立てています。だからこそ「紙は作らない、データは構造化して持つ」ということを徹底しています。──AIによる効率化も、そうした背景から進められているのですね。大牟禮様: 昔のように中央のエンジニアがシステムを作って現場に落とすというやり方は、現代のAIツールの進化が早すぎるためすぐに陳腐化してしまいます。各現場でデジタルが好きな人やリテラシーが高い人を1、2名配置し、彼らが現場で工夫してフィードバックしてくれるやり方でないと、会社のスピードが落ち、世の中のスピードについていけません。会社の歴史・転換点──今でこそ非常にデジタルリテラシーの高い組織ですが、そこに至るまでにはどのような苦労や歴史があったのでしょうか。大牟禮様: 当社のIT化の始まりは、実は介護事業ではなく、就労支援事業からでした。体に障害がある方々がどうやって稼げるようになるかを考えた時、プログラミングやWebでの記事作成など、パソコンでできる仕事を学ぶ場を作ろうとしたのがきっかけです。──全くのゼロからのスタートだったのですね。どのように進められたのですか?大牟禮様: プログラミングの素養がある方を採用し、さらにスタッフを専門学校に通わせてアプリ作りを学んでもらい、それを障害者の方々に還元するという仕組みを作りました。当時はIT企業で働いたことがあるエンジニアが1人もいない状態からのスタートでしたので、プロジェクトの進め方も分からず、本当に挫折の連続でした。本やYouTubeを見ながら、一つひとつやり方を探していきました。──大変な苦労があったのですね。それでも皆さんで乗り越えられた原動力は何だったのでしょうか?大牟禮様: 「自分たちで作っている」という創業のような感覚が強かったのだと思います。ここでうまくやれれば、最後はみんなが豊かになって幸せな会社になるという夢を語り合っていました。──その熱意が介護事業部へのITの浸透にも繋がっていったのでしょうか?大牟禮様: 介護事業部への浸透は最初はITへの抵抗感が非常に強く、大変でした。新しいものへの抵抗感はどうしてもありますし、全く使われずに紙が残っているような状態もありました。その対策の一環として、全社的にシステムに興味がある人を各現場に1、2人作るという目標を立て、勉強会などを通じて徐々に広げていきました。活躍する社員について──貴社で活躍されている社員の方々には、どのような共通点があると感じられていますか?大牟禮様: 一番は「変化に強い」ということです。介護現場の超アナログな業務をIT化し、さらに生成AIが入ってきてやり方がどんどん変わっていきます。過去の自分のやり方を守りすぎず、新しいことに柔軟に対応できる人が活躍しています。──採用の際にも、そうした柔軟性や好奇心を見られているのでしょうか?大牟禮様: 型にハマっている人や、「社会の頭(世の中の当たり前)」で考えてしまう人は少し合わないかもしれません。ゼロベースで自分の頭で本質を見極めて、「今までこうだったから」と言わずに、変化が激しい中で現在何をするべきかを適切に判断できる人を評価しています。──社員の方の行動で、最近特に感動されたエピソードがあれば教えてください。大牟禮様: やはり、Claude Codeを7人も使えるようになったことには驚き、感動しました。また、事業拡大に伴って年々様々な不具合が発生する中で、現場から「全社に横串を刺すような仕組みを作りました。どうですか?」と提案が上がってくるのは本当に嬉しいですね。社員一人ひとりが業界に対する危機感を持ち、主体的に動いてくれている証拠だと思います。会社の事業について──改めて、貴社の事業内容について簡単にお聞かせいただけますか?大牟禮様: 主に介護施設の運営と、障害のある方のための就労支援事業を行っています。介護事業においては、ご利用者様の主体的な人生を支えるケアを提供するとともに、就労支援事業ではITスキルを通じた自立のサポートを行っています。──事業の特性上、現場での細やかな対応が求められる一方で、徹底した効率化も進められているのですね。大牟禮様: 先ほどもお話しした通り、福祉業界全体の課題として待遇面の問題があります。私たちが現場のケアに集中し、かつスタッフの生活を豊かにするためには、デジタルを活用した業務効率化が不可欠です。事業の性質上、売上を青天井に伸ばすことは難しいため、いかにペーパーワークなどのムダをなくし、本質的なケアに時間を使えるかが、私たちの事業成長と人材育成の鍵を握っています。未来への取り組み・今後の展望──最後に、今後新たに取り組みたいことや、未来への展望を教えてください。大牟禮様: 今後一番やりたいと考えているのは「コーチング」の導入です。社員である中間管理職がコーチングを受けることと、社内でコーチができるようになるための研修を実施したいと考えています。──これまで論理的・デジタル的なアプローチで課題解決をされてきた印象ですが、なぜ今コーチングなのでしょうか?大牟禮様: 介護現場にはエモーショナルな感情を大切にするスタッフが多く、論理的な問題解決型のアプローチだけでは心が付いてこないケースがあると感じ始めたからです。理系的な思考で「Aという課題があるからBを潰そう」と論理的に伝えても、現場のスタッフは「もっとこういうケアがしたい」という想いが強く、抽象的になってしまってフィットしないことがありました。──現場の想いと論理のギャップを埋めるためのコーチングなのですね。大牟禮様: 現状から課題を抽出するよりも、「私たちはどういう介護がしたいのか」「どうなりたいのか」というゴールを想像し、そこからブレイクダウンしていくアプローチの方が、介護現場には向いているとここ1年ほど考えています。すでにコーチングを導入している他社では、施設長たちの頭が整理され、本来集中すべきことが明確になるという素晴らしい効果が出ています。当社でも、自社の事業や仕事の内容をしっかりと理解してくれるコーチを選定し、スタッフがより主体的に、前向きに業務に取り組めるような環境を整えていきたいです。