✦ Interview · No. 0090

IT・メディア・広告業界

恒和システム株式会社

代表取締役社長 平野

2026/07/27

◈ Editor’s Note

IT人材の獲得競争が激化し、即戦力の中途採用が主流となる中、あえて「新卒採用」にこだわり、教育に2,000万円以上を投資して未経験からITエンジニアを育て上げる企業がある。 かつては中途採用の退職者が絶えず、帰属意識の欠如と数々のトラブルに悩まされていた。 しかし、30数年前に新卒採用一本に切り替え、さらに経営情報を全社員にフルオープンにするという大胆な施策を実行した結果、離職率の激減と高い帰属意識を実現した。 「会社は社員の夢を叶えるステージ」と語り、目先の利益に囚われず、社員の主体性を育む独自の育成論と、過去のどん底の危機から学んだ強靭な経営戦略の裏側に迫る──。

カイシャの育成論

──最初に、現在人材育成についてどのようなお取り組みをされているのか、全体像を教えてください。

平野様:当社では、技術職を育てるというベースの上に、「技術の研修」と、「人間力や社会人としての力を育てる研修」の二本立てを行っています。
他の企業様と少し違うのは、単に研修のプログラムがあるだけではなく、「人とのつながりを作る場」が存在している点です。
実はこれが、当社の離職率の低さに一番関係しているところだと考えています。
現在のIT業界は完全なレッドオーシャンで、即戦力となる経験者の取り合いです。
しかし、当社では採用は新卒に絞っています。
中途採用の方というのは、どうしても「仕事内容」や「お金」などの条件を中心に会社を選びます。
そのため、会社に対する帰属意識やまとまりが生まれにくいのです。

──しかし、新卒や未経験から育てるとなると、現場に出るまでに時間もコストもかかってしまいますよね。

平野様:その通りです。
それで以前は中途採用のみを行っていましたが、退職者が絶えませんでした。
一年中、多額の費用をかけて中途採用の募集を行い、入社してはすぐに辞めていく。
その繰り返しでした。
中途採用組の中には、信じられないようなトラブルを起こす人も少なくありませんでした。
昔はIT技術者が非常に貴重だったので、人として問題があっても技術力さえあれば稼げてしまう時代だったのです。
これでは経営が安定しないと考え、思い切って新卒採用一本に切り替えたのが30数年前です。
長い目で見れば、新卒をじっくり育てていく方が、結局は会社に価値が残り続けると感じました。
結果として、現在では業界でも珍しいほど帰属意識の高い組織ができあがっています。
現在、当社は私を含め全員が新卒入社です。

──入社前の段階から、かなり手厚い教育を行っていると伺いました。

平野様:まず内定者の段階で、Eラーニングを使って国家資格である基本情報技術者試験の学習を行います。
それから入社後の3ヶ月間は外部のITスクールに通ってもらい、朝9時から夕方6時まで、本当に学校のようにみっちり勉強して基礎を固めてもらいます。
学費はもちろん、その間の給与も100%支給しています。
しかし、3ヶ月スクールに通っただけでは現場では全く通用しません。
入社後はさらに現場でのOJTを通じて実践的な勉強をしてもらいます。
実質的に、最初の1年近くは新卒社員の売上はゼロです。
それでも目先の利益を追求していては長く続かないという過去の教訓があるため、時間とお金をかけてじっくりと育てています。
現在では、教育費全体で年間2,000万円以上を投資しています。

──技術面だけでなく、先ほどおっしゃっていた「人間力を育む場」や「帰属意識を高める取り組み」については、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

平野様:外部研修も行っていますが、その他にも月に1回、全社員が集まる社内研修の場を設けています。
以前はただ会社に戻ってくるだけの「帰社日」がありましたが、技術者の立場からすると、戻って来て交通費精算や事務処理をするだけでは、わざわざ仕事を切り上げて戻ってくる意味を感じません。
そこで、「帰ってきたら何かを得られる」研修へと内容を大きく変えました。
SESという事業の特性上、社員はそれぞれ別々のお客様の現場に出ています。
同じ会社の社員なのに、名前は知っていても顔は知らないということが起きてしまいます。
そのため、毎月の研修では全員で「共通言語」を作ることを意識し、必ず最後に「近況報告」の時間を設けています。
今現場でどんな仕事をしているのか、そしてプライベートでどんなことがあったのかを全員の前で話してもらい、お互いの人となりを知る機会にしています。
これが社員同士の強い関係を作る一つの要因になっていると思います。

会社の理念や考え方

──御社の大切にしている理念や、組織づくりの根底にある考え方について教えてください。

平野様:当社では、経営情報はすべてオープンにしています。
一般社員から役員まで、全員が同じ情報を持てるようにしているのです。
毎月、個人の売上、コスト、利益の明細を包み隠さず全員に公開しています。
「どうすれば利益が上がるのか」「自分がどれだけ会社に貢献しているのか」を、社員一人ひとりに考えてもらうためです。

──経営情報をそこまでフルオープンにする企業は非常に珍しいと思います。
どのようなきっかけでその制度を始められたのでしょうか。

平野様:初代社長が退任し、2代目社長の新体制のもと私は役員に就任したのですが、それをきっかけに始めました。
先代の経営陣は、社員に対して数字の根拠を明確に示さず、「利益が出ていないから賞与は出せない」とだけ伝えていました。
社員からすれば、「こんなに一生懸命働いているのに、なぜ利益が出ないのか、なぜ自分たちの待遇が良くならないのか」が分からず、不信感だけが募っていき、結果として退職につながっていました。
私自身、「自分が一般社員だったら不透明な経営は絶対に納得できない」と強く感じていたのです。

──「自分が社員だったら」という視点が、全ての制度設計のベースになっているのですね。

平野様:当社では、重要なことはすべて「社員の意見」で決めるようにしています。
例えば、決算賞与の配布方法を「現金にするか、振込にするか」という議論をしたこともあります。
他にも、人事考課の仕組みや評価の文言、新規事業の提案から審議に至るまで、社員のアンケートや意見で決定しています。
年に2回、全社員が集まる情報共有の会議があるのですが、これも社員の意見で「9月の最終土曜日」と「4月の第一土曜日」に開催することが決まりました。
休日に集まることに反発があるかと思いきや、「自分たちで決めたことだから」と誰もが納得して参加しています。
会社が上から押し付けるのではなく、選択権を与えて自ら選ぶことができる状況を作ることで、社員の自主性を引き出しているのです。

会社の歴史・転換点

──現在の強固な育成体制やオープンな経営スタイルが出来上がるまでに、どのような歴史や苦労があったのでしょうか。

平野様:私が知る限りでの一番どん底の危機は、2008年のリーマンショックの時期でした。
当時、技術者の半数近くがお客様先から契約を切られて戻されてしまい、予定していた大型プロジェクトも突然白紙になりました。
給与は払わなければならないのに仕事がない。
会社が本当に潰れるかもしれないという危機感がありました。
一番悔しかったのは、不景気の時期だからこそ、普段は採用できないような優秀な人材を採用できる「最大のチャンス」だったのに、会社にお金がなくて採用も教育も一切できなかったことです。
「みんながピンチの時こそ攻め時なのに、資金がないと何もできない」という現実を骨の髄まで痛感しました。

──その絶体絶命のピンチから、どのようにして立て直されたのでしょうか。

平野様:国の緊急雇用助成金を申請して、何とか最悪の事態は乗り越えました。
しかし二度とこんなことにならないようにするためには、社員のレベルを上げなければならない、何があっても必要とされる技術者にならなければ、と思い、とにかく「教育の資金」を作らなければならないと決意しました。
昔は「技術者は技術さえあれば、挨拶ができなくても許される」という業界の悪しき風潮がありましたが、それではお客様からクレームが来る時代に変わっていました。
そこで、私が役員に就任した時に社労士や税理士の顧問契約をやめ、自社で行うことで浮いた費用を社員の教育費に全振りしたのです。
同時に、先ほどお話しした「経営情報のフルオープン化」を実施し、「少しでも利益が出たら必ず決算賞与を出す」と社員に約束しました。
最初の年はわずか1万円でしたが、それでも「本当に約束通り出た!」と社員の目の色が変わりました。
そこから社員たちが自主的に無駄な残業を減らし、マネジメントを意識するようになり、3年後には見違えるような利益が出るようになりました。
そして5年目くらいには積年の赤字から脱却し、無借金・黒字経営を実現できたのです。

活躍する社員について

──御社で現在活躍されている社員の方々には、どのような共通点があるのでしょうか。

平野様:どんな業界でも共通するかもしれませんが、言われたことや目の前のタスクだけをこなす人は、やはりそれ以上の成長はありません。
当社で真に活躍しているのは、「目的」を深く理解し、全体を俯瞰して、お客様自身も気づいていないような課題を見つけ出し、提案できる人です。
ITエンジニアである以上、プログラミングやシステム構築の技術があるのは、お客様からすれば「できて当たり前」です。
そこでプラスアルファの価値を出せるかどうか。
特に私たちがメインとしている業務システムの構築では、お客様の業務そのものに対する深い理解が不可欠です。

──「お客様の業務の深い理解」というのは、一朝一夕には身につかないスキルですね。

平野様:だからこそ、お客様の真の目的や、「これを実現するためには何が必要か」を論理的に考え、それを相手にしっかりと「伝える力」を持っている人が必要とされます。
実は、技術者だからというわけではなく、社会全般において「正しく伝える」ことが苦手な人が多いと感じています。
当社の社員は、社内の様々な決議の機会を通して、主体的に考える訓練を積んでいます。
だからこそ、現場に出ても単なる作業者で終わらず、パートナーとしてお客様と向き合うことができるのではないかと思います。
若手ですぐに目覚ましい活躍をするのは難しい業界ですが、時間をかけてじっくりと「考える力」を養うことで、長期的に活躍できる人材が育っています。

会社の事業について

──御社の事業の特性や、お客様との関わり方について教えてください。

平野様:当社はSES(システムエンジニアリングサービス)を中心として事業を展開しています。
当社の最大の特徴は、お客様との取引期間が非常に長いことです。
メインのお客様とは短いところで15年以上、最も長いところでは50年以上ものお付き合いがあります。
この業界では、プロジェクトが炎上したり難航したりすると、途中で投げ出してしまう会社も少なくありません。
しかし当社は、「絶対に逃げない」という姿勢を貫いており、それが深い安心感と信頼につながっています。

──「逃げない」という姿勢を象徴するような、印象的なエピソードはありますか。

平野様:リーマンショックで仕事が激減した際、少しでも売上を作ろうと「受託開発」に手を出した時のことです。
当時の社員たちは受託のマネジメントや見積りの知見が充分になく、完全に甘く見ていました。
結果として、5,000万円の売上のプロジェクトに対して、7,000万円ものコストがかかる大赤字を出してしまったのです。
社員だけでは手に負えない状況に陥ったため外部の協力会社を投入し、どんなに費用がかかっても投げ出さず、最後まで作り上げました。
この経験は社内で伝説、あるいはトラウマとして語り継がれていますが(笑)、同時に「自分たちの立ち位置」や「ビジネスの厳しさ」を学ぶ教訓となりました。
単なる「いい人」でいるだけではビジネスでは通用しない、時にはお客様と意見をぶつけ合ってでも、人もお金も含めた自社の利益を守らなければならない、ということを身をもって学んだ出来事です。

未来への取り組み・今後の展望

──最後に、これから挑戦したいことや今後の展望、経営者としてのビジョンをお聞かせください。

平野様:私は常々、「会社とは、社員一人ひとりの夢を叶えるためのステージである」と考えています。
この会社という器を使って、社員全員に幸せになって欲しいと本気で思っています。
例えば、もし社員の一人が「園芸店をやりたい」と言い出し、他のメンバーもそれに賛成して「一緒にやろう」となるのであれば、IT事業にこだわらず、園芸店をやってもいいと思っています。
社員が本当にやりたいことを叶えられる会社でありたいのです。

──IT企業が園芸店を支援するというのは驚きですが、それだけ社員の可能性を信じているということですね。

平野様:もちろん、利益を上げられなくてはいけません。
そのためには、単に「いい人」として使われて終わるのではなく、しっかりとリーダーシップを取り、マネジメントができる人材に成長してもらう必要があります。
そして経営側としては、社員が「これをやりたい」「新しいことにチャレンジしたい」と手を挙げた時に、資金の面で即座に後押しができるよう、しっかりと利益を出して資金を準備しておく責任があります。
過去のリーマンショックの時のように、「お金がないからチャンスを逃す」という悔しい思いは二度としたくありません。
「悪い時ほど投資をする」。
みんなと同じことをしていては、それなりの結果しか得られません。
これからも、堅実にお客様の期待に応えつつ、社員の「やりたい」を全力で叶えられるよう、果敢に進んでいきたいと考えています。

✺ Interviewees

お話を伺った方

  • 代表取締役社長

    平野

    1990年4月:恒和システム株式会社に入社 2012年10月:同社 取締役に就任 2023年10月:同社 代表取締役社長に就任

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