カイシャの育成論
──現在、人材育成や組織開発において、特に力を入れている取り組みについて教えてください。
磯村様:当社が今取り組んでいる特徴的な制度に、「ピープルマネジメント室」があります。
会社の組織づくりと情報発信を担うコーポレートデザイン本部の中に部屋をひとつ立て、さまざまな部署から人をピックアップして集めました。
目指しているのは、マイクロマネジメントを実現するために、人の成長にコミットする体制をつくることです。
研修の設計やキャリアマップの作成、メンタル状態の確認まで、この部署が一人ひとりに向き合いながら担っています。
一人ひとりに合ったマネジメントが理想だと分かっていても、人事が本気でそれをやろうとすれば膨大なコストがかかります。
ピープルマネジメント室は、その理想をいかに低いコストで実現し、成果を出せるかに挑む部門として、あえて独立させました。
そもそも、部長やリーダーが人の成長までマネジメントするという発想自体が、当社の考え方とは少しずれています。
リーダーや部長は、事業の未来をつくることにコミットする人たちです。
人を育てることに関しては、ピープルマネジメント室が担う。
この二つを一人の人間が両立させるのは、想像以上に難易度が高いことです。
マネジメントと育成のどちらかが置き去りになり、結果としてマネージャーが「プレイングマネージャー」になってしまう。
当社は、事業のマネジメントと人のマネジメントを意図的に分けることで、この課題を解決しようとしています。
──このように先進的な体制に至った経緯を教えていただけますか。
磯村様:僕自身、仕事の面では色々なことを決めたり考えたりする一方で、プライベートでは朝起きるのが苦手で、遅刻することもたまにあります。
仕事に波があることを、僕自身もよく感じているのです。
同じことは、社員にも言えるはずです。
たとえば、家庭で気持ちよく送り出された日と、そうでない日とでは、仕事への向き合い方も変わってくるでしょう。
誰もが、それぞれのプライベートな環境に左右されながら働いています。
結婚した年や子どもが生まれた年など、人生の節目でも、仕事への向き合い方は変わるはずです。
だからこそ、僕はそうした変化を待てる組織にしたいと考えています。
プライベートが落ち着かず仕事に集中できない時期があっても、それは仕方のないことです。
無理にやらせるのではなく、必要最低限のことだけをお願いして、本人の中に危機感ややりたい気持ちが湧いてきたタイミングで、一緒にやろうと声をかける。
社員に人生の時間を仕事に使ってもらっている以上、家族やプライベートの時間についても、会社の側が待てる形にならなければいけない。
これは、人と接するうえで僕が大切にしている考え方であり、ピープルマネジメント室をはじめとする様々な制度に反映されています。
──取り組みを進める中で、実際にどのような効果を感じていらっしゃいますか。
磯村様:社員から「言わされている」という感覚が減ってきたと感じます。
社長になって16年になりますが、最初のころは、社員が「共感しています」「そう思います」と話してくれても、それは社長だから言っているだけなのではないか、という違和感がありました。
当社の至らない部分について、賛成も反対もしっかりと声が上がるようになってきたのは、ここ数年の変化です。
それは、私たちがそうした声を受け止め、寄り添っていく姿勢を見せ続けてきた結果だと思っています。
活躍している社員や、辞めてほしくないと思う人材の小さな声こそ、拾えるようになってきました。
賛否がはっきり出るようになったことは、決して悪いことではなく、むしろ組織として良い方向に向かっている証拠だと捉えています。
──一方で、対応が難しいような意見や要望が出てくることもあると思います。
そうした声への向き合い方について、工夫されていることはありますか。
磯村様:以前、匿名で意見を出せる目安箱のようなものを設置したことがあります。
実際に出てきた意見の中には、正直なところ、幼稚だと感じるものもありました。
それでも、ひとつひとつに丁寧に答えるようにしていました。
僕自身、意味の分からないルールに対しては反発したくなるタイプの人間です。
だからこそ、意見を出した本人の気持ちも分かる部分があります。
多くの場合、その人に足りていないのは納得感ではなく、情報なのです。
たとえば、出社にはリモートワークほどの合理性がないのではないか、という声が出たとします。
本人一人だけを見れば、たしかにその通りかもしれません。
しかし、新しく入った社員や、気を抜いてしまう社員も含めた組織全体で考えたとき、実際に働いているという証明や、対面でのコミュニケーションが必要な場面は当然出てきます。
そうした背景を丁寧に説明していくと、多くの場合は理解を得られます。
だからこそ、情報量をきちんと届けることを、僕は大切にしています。

会社の理念や考え方
──こうした取り組みの根底にある、御社の理念や考え方についてお聞かせください。
磯村様:当社がパーパスとして掲げているのは、「ビジネスにフェアネスを」という言葉です。
これだけだと分かりにくいかもしれませんが、僕たちが大切にしているのは、機会の平等です。
誰もが一定の機会を与えられ、そこに挑戦できる状態をつくる。
これは事業のあり方にも、人材への向き合い方にも共通しています。
どちらかというと、僕は事業をつくるのが好きな人間です。
会社を経営する中で磨いてきた事業モデルの考え方を、そのまま人材にも当てはめて考えているところがあります。
だからこそ、一般的な人事施策よりも、少し尖った合理的な発想になっている部分が多いのかもしれません。
中でも、人事として掲げているテーマが、「人と組織の可能性を探し、信じ、証明する」という言葉です。
これはもともと、なぜ起業したのかと聞かれたときに、僕がよく答えていた「可能性の証明」という言葉に由来しています。
僕自身、特別な生まれではなく、ごく一般的な家庭で育ちました。
それでも事業を通じて売上を伸ばしていくことができたという事実そのものが、可能性の証明だと思っています。
同じことを、人材に対しても実践したい。
可能性を探し、信じ、そして証明するところまで一緒にやり抜く。
これが、当社のあらゆる制度に共通する考え方です。

会社の歴史・転換点
──ここまで組織づくりに力を入れてこられた中で、乗り越えるのが特に大変だったご経験があれば教えてください。
磯村様:苦労したのは、やはりリーダーやマネージャーの育成です。
組織が拡大していく中で、僕一人が見られる範囲には限界がありました。
組織化を進め、リーダーにどんどん任せていく段階になると、意図がうまく伝わらないまま話が進んでしまうことが数多くありました。
当時は、リーダーを自分と同じような人間に育てようとしたこともありましたが、それではうまくいきませんでした。
──試行錯誤を経て、現在はどのような基準でリーダーを育てていらっしゃるのでしょうか。
磯村様:今、僕たちがリーダー像として掲げているのは、事業に一番ワクワクしている人物です。
事業の未来に対して自分なりの考えを持ち、それを語れる人だからこそ、周囲を巻き込んでいくことができる。
個々のスキルはもちろん大切ですが、それ以上に、事業を一番好きでいてくれる人であることを重視しています。
うまくいっていなかった頃のリーダー像は、指示を出し、命令してやらせるという考え方に近いものでした。
しかし、リーダー自身がどれだけ熱意を伝えられるかということの方がずっと大切だと気づいてから、状況は好転し始めました。
何かを成し遂げようとすれば、百パーセント壁にぶつかります。
そんなとき、その分野で自分より優れた人が手伝ってくれるかどうかが分かれ目になります。
僕自身、話すことは得意なのですが、文章を書くことが大の苦手で、結婚式のスピーチも、専務が僕の思いを聞き取って代わりに書いてくれました。
部長やリーダーが万能である必要はありません。
それぞれの尖った才能をピンポイントで活かし合えるからこそ、組織で動く意味があります。
「自分より強い人材は部下に置けない」とよく言われますが、僕はそれを、伝え方が下手なだけだと考えています。
この事業の未来を誰よりも強く願っているという自負があるからこそ、多くの仲間の力を借りることができるのです。
活躍する社員について
──活躍されている社員の皆さんに、共通する特徴はありますか。
磯村様:事業そのものを面白いと感じて、面白がっている人だと思います。
楽しんでやっているというよりも、「やってみたらいいじゃん」というくらいの軽やかさで取り組んでいる人の方が、結果的に活躍しているように見えます。
人にはそれぞれ波があるので、伸びている瞬間を見極めて、その時間をできるだけ長くしてあげたいといつも思っています。
多少成績が振るわない時期があっても、批判的なアプローチは取らず、本人が自ら気づくタイミングを待つこともあります。
──社員の主体性を尊重される一方で、あえて指示を出されていることもあるのでしょうか。
磯村様:リーダーには、「ミーティングで笑いを取れ」とよく伝えています。
数字が振るわなかったときの報告会議ほど、重い空気になりがちです。
しかし、そういうときこそ、リーダーが冗談のひとつも言えるくらいの余裕を持つべきだと思うのです。
反省すべき点は当然押さえたうえで、それ以上に大切なのは、どんなテンションで次に向かうかということです。
反対に、うまくいっているときほど、次に訪れる落ち込みの瞬間に備えて、真面目に対策を練るよう伝えます。
正直なところ、口先だけの反省にはあまり意味がありません。
本当に反省しているのであれば、すでに行動を変えているはずだからです。
短い期間の出来事に一喜一憂するのではなく、次に挑むための気持ちをどうつくるかの方が大切です。
成績が振るわない背景には、本人の気持ちや取引先の事情など、様々な要因が絡み合っているものです。
だからこそ、本人だけを責める時間は無駄だと思っています。
──社員が新しいことに挑戦し続けられる環境がある一方で、心が折れてしまう場面もあるのではないでしょうか。
磯村様:もちろんあります。
ただ、心が折れているときは、折れていてもいいと考えています。
無理に前を向かせる必要はありません。
本人から弱音を聞いたときは、少し休んでおけばいいと伝えるようにしています。

会社の事業について
──最後に、御社の事業内容について教えてください。
磯村様:当社は2011年の設立以来、電話業務支援の分野でサービスを提供してきました。
主力のアウトバウンドコールシステム「lisnavi」をはじめ、クラウドIVR「OSORA」、そして今年からは面接官支援型AI「bq-Recruit」も展開しています。
企業の営業やコールセンター、採用の現場が抱える課題を、テクノロジーで解決することが当社の役割です。
創業した当時、この業界の主流は数百万円規模のオンプレミス型システムでした。
当社はそこに、初期費用を抑えたクラウド型のサービスで参入し、スタートアップのような小さな企業でも導入できる手軽さにこだわってきました。
誰にでも挑戦の機会があってほしいという思いは、実は事業そのものの成り立ちにも表れています。
現在は84名の社員を抱える規模まで成長しました。
お客様の「現場」に向き合い続けてきた当社だからこそ、自社の現場である社員一人ひとりにも、同じだけの解像度で向き合いたいと考えています。
未来への取り組み・今後の展望
──最後に、今後の展望についてお聞かせください。
磯村様:目指しているのは、マイクロマネジメントのさらなる合理化です。
当社を辞めていった人の中で、仕事そのものを辞めた人は一人もいません。
皆、形は違っても何らかの仕事を続けています。
であれば、その働き方の幅を、当社の中でこそ広げていきたいのです。
今は、事業があって、それを進めるために必要な人を配置するという発想が主流です。
しかし、逆に、人が持っているスキルから新しい事業が生まれるパターンがあってもいいはずです。
たとえば、絵を描くのが非常に上手な人がいたとして、その力をビジネスに変える仕組みが当社にあれば、その人と一緒に新しい仕事をつくっていくことができます。
今の事業はある程度かたちになってきたので、次はそうした、人から生まれる事業の柱を、もうひとつ立てられたら面白いと思っています。
当社を辞めていく人たちとも、最後にご飯を食べに行くことがあります。
そういうときの僕は、もう社長としてではなく、一人の友人として話しています。
当社にやりたいポジションがないのであれば、それは仕方のないことです。
だからこそ、他の場所で活躍してもらえるよう応援したいですし、いつかそのためのポジションができたときには、また戻ってきてほしいとも願っています。
この枠をどれだけ広げられるかが、これからの勝負だと考えています。
将来的には、そうした人たちを受け入れられるくらい、懐の広い会社にしていきたいですね。
