✦ Interview · No. 0097

教育・人材業界

WBPグループ株式会社

代表取締役 五十嵐一 様

2026/10/23

◈ Editor’s Note

「5年で当社を卒業していい」——多くの企業が人材の引き留めに知恵を絞る中、WBPグループ株式会社はあえて社員の独立や転身を後押ししてきた。一見矛盾するようにも映るこの方針のもと、創業からの10年間で11人の社長を送り出し、社員の約7割を占める外国籍スタッフが8か国から集う組織へと育て上げている。コロナ禍で月商が1000万円を割り込む苦境を経験しながら、今期は売上30億円、来期は40億円を見込むまでに成長を遂げた。「人の夢に人が集まる」という理念を胸に、若手を次々と経営者へ抜擢してきた同社の育成の思想に迫る──

カイシャの育成論

──現在、人材育成について力を入れている取り組みや事例があれば教えてください。

五十嵐様:創業当初から一貫して掲げているのが、「全員5年で卒業していい」という考え方です。新卒でも中途採用でも関係なく、この方針を伝え続けています。5年で辞めさせてどこかへ送り出す、という意味ではありません。人材を定年まで囲い込むのではなく、人生という100段の階段のうち、当社が支えられるのはおそらく20段から30段までだろうと考えているのです。それ以降は、それぞれが望む道を歩んでほしいという思いがあります。この考え方の背景には、私自身がかつて貧しい環境で育ち、いつか豊かになりたいと強く願っていた経験があります。その一心で独立に踏み切ったこともあり、当社に関わってくれる社員にも同じように豊かになってもらいたいという思いが、創業当初から強くありました。

──5年で送り出すという方針を貫きながら、実際に多くの社長を輩出されているそうですね。

五十嵐様:社会人としての基礎、あるいはこの業界の基礎だけは当社でしっかり身につけてもらい、6年目からは独立するもよし、それまでの経験を生かして別の業界に挑戦するもよし、と伝えています。新しい道に進みたくない、独立には向いていないという社員には、社内でさらに上のポジションを目指してもらう形です。おかげさまでこの10年間で、11人の社長が生まれました。各拠点の責任者やグループ会社の代表としてステップアップしていったメンバーも多く、こうした文化のもとで社員の人生をもっと豊かにしていきたいという思いで、当社は歩んできました。

──10年で11人の社長を輩出しながらも、経営者としては人材が抜けていく厳しさもあったのではないでしょうか。

五十嵐様:正直に申し上げると、1年、2年と勤めてくれた社員であれば、事業のことだけを考えれば手放したくないというのが本音です。戦力になってくれていますから。ただ、当社の都合で相手の人生を台無しにしたくないという思いが最初からあり、独立を望む社員がいれば、スケジュールを一緒に考えながら、できる限り応援してきました。もちろん、管理職を任せていた社員が抜け、次の担当者が業務に慣れるまでの2、3か月は苦しい場面もあります。しかし、新しいリーダーが台頭することで、前任者の良い部分を引き継ぎながら課題を改善し、組織がより活性化するという側面も実感してきました。当社は業界的に年収水準が高いとは言えない面もあるからこそ、社員が人生を豊かにする道を選べるよう、最大限に応援したいという思いは今も変わりません。

──5年を待たずとも、独立を志す社員への支援も具体的にされているのでしょうか。

五十嵐様:正直なところ、5年を経てもなお、この先何をすべきか明確に見えていない社員が約8割を占めていると感じています。入社1年目、2年目の頃から、将来やってみたいことについて相談を受けることも多いのですが、そのうち実際に自分のやりたいことを見つけて独立できるのは、2割ほどにとどまります。そこで、残る8割の社員のために、当社自身が事業をつくる役割を担っています。具体的には、まず当社が事業を立ち上げて運営し、責任者として2、3年ほど任せたのち、軌道に乗ったタイミングで株式を含めて本人に譲渡し、独立してもらうという形が最も多いパターンです。ほかにも、担当していた業務をそのまま持って独立してもらう方法もあります。総務や経理といった部門は必ずしも社内になければならないわけではないと考えており、切り出して任せる形も取ってきました。このほか、学校運営やビルメンテナンスといった新規事業では、その分野に強い関心や経験を持つ社員に、立ち上げからすべてを任せるケースもあります。

──新しい事業のアイデアは、五十嵐様ご自身が主導することが多いのでしょうか、それとも社員から生まれるのでしょうか。

五十嵐様:現場から声が上がることもありますが、多くは漠然とした段階にとどまっています。それを具体的なプランに落とし込めるかどうかを一緒に検討し、実現性が見込めれば形にするという流れです。今年5月に立ち上げたコンビニエンスストア事業も、その一例です。もともと当社は商社として、日本の商品やサービスを海外に売り込む役割を担っていました。しかし、品質の良さを伝えようにも、現地の方々には日本の商品に触れた経験がなく、なかなか魅力が伝わりませんでした。それでも、お客様に「売らせてほしい」と言った以上、売れない結果を伝えるわけにはいきません。そこで、自分たちの店を持ち、約束した商品を確実に届けられる形をつくろうと考え、コンビニ事業を立ち上げました。現在はモンゴルで6店舗を運営しており、日本製・日本人による商品やサービスというコンセプトのもと、来年には2か国目、再来年には3か国目と、親日国を中心に展開を広げていく計画です。

──海外展開は、外国籍の社員にとっても新しい可能性につながりそうですね。

五十嵐様:おっしゃる通りです。当社には8か国から社員が集まっており、本体だけでも約7割が外国籍社員です。当初はそこまで想定していたわけではありませんでしたが、事業を進める中で、母国に戻った社員が現地の拠点を担い、コンビニ事業を広げていくという構想が現実味を帯びてきました。実際、名古屋のオフィスでベトナム人・ネパール人の社員と話した際にも、将来は自国で当社の代理を担いたいという声を聞いています。海外での生活経験を持つ社員も多いため、もう一度海外で暮らしたいと考えたときに、当社のコンビニ事業がその受け皿になればと考えています。仕事も住まいも同時に用意できる仕組みを、少しずつ形にしているところです。

WBPグループ株式会社の社内にある休憩スペース

会社の理念や考え方

──改めて、貴社の経営理念についてお聞かせください。

五十嵐様:経営理念として掲げているのは、「世界中の人の役に立つ」ということです。当社を通じて、就職や住まい探しなど年間およそ1万人を、45か国にわたる方々に対して支援しています。取引先は100パーセント日本国内の企業ですので、そうした企業に海外の人材を紹介しながら、日本の商品やサービスを海外に届けることで、日本と世界をつないでいきたいと考えています。将来像としては、日本と世界をつなぐ日本一のグローバル企業になることを目指しており、少なくとも関西では、すでにそれに近い存在になれているのではないかと感じています。

──「夢」という言葉を大切にされているそうですね。

五十嵐様:私自身の夢もあれば、当社としての夢もあり、社員一人ひとりにもそれぞれの夢があります。そうした夢を持つメンバーが一つの場所に集まり、当社という会社をいい意味で利用しながら、自分の夢を実現していってほしいと考えています。私自身がよく口にしているのは、「会社に利用された時点で終わりだ」という言葉です。会社を利用してどう自分の夢を実現するか、という発想を大切にしてほしいという思いを込めています。入社時から新卒か中途かを問わず、いずれ経営者になったときにどう考えるかを意識してもらうようにしています。誠実に、スピード感を持って、全員が経営者としての意識を持って取り組む文化を、当社は育んできました。

──外国籍の社員が多い分、言葉や文化の壁を越える工夫も必要になりますね。

五十嵐様:正直なところ、文化や言葉の壁は今も存在します。それを乗り越えるため、社内で日本語や英語、韓国語などを学べる仕組みを用意しているほか、コミュニケーションを深める機会も数多く設けています。年に2回、全社員がホテルに集まる合宿では、半年間の振り返りや今後の計画を話し合いながら、懇親会を通じて交流を深めています。バーベキューなどの機会も含め、こうした文化がなじむまでには5年、10年、あるいは20年という時間がかかるかもしれません。それでも、新しい取り組みを重ねながら、本当の意味でのグローバルな組織を築いていきたいと考えています。

WBPグループ株式会社のミーティングスペース

会社の歴史・転換点

──ここまでの10年間で、大きな転換点となった出来事があれば教えてください。

五十嵐様:大変だったことのほうが、正直圧倒的に多いです。2016年の創業から11か月目には資金繰りが厳しくなり、社員に深く頭を下げて、売上が入るまで月末を待ってほしいと伝えたこともありました。2019年には社内で大きなトラブルが起き、行政とのやり取りも重なって、売上が落ち込んだ時期もあります。創業からコロナ禍に入るまでの4年間は、1年目に3000万円、2年目に1億5000万円、3年目に3億2000万円、4年目には4億円と、毎年着実に売上を伸ばしてきました。当時はインバウンド需要の拡大を追い風に、ホテル関連のお客様を中心に事業を広げていたのです。

──軌道に乗り始めた矢先に、コロナ禍が直撃したのですね。

五十嵐様:その通りです。月商は1000万円を割り込み、最も落ち込んだ月は東京と本社を合わせても600万円ほどにまで下がりました。インバウンド関連のお客様との取引が次々と打ち切られ、帰国できない外国籍の方々が仕事も住まいも失うという厳しい状況が広がっていったのです。ちょうどその時期に新卒社員を採用したばかりで、内定を取り消すことも一瞬頭をよぎりました。それでも、どのような状況であっても無責任な対応だけはしたくないという当社の経営理念に立ち返り、新卒の受け入れを続けながら、事業をインバウンドから食品関連へと一気に転換させました。あわせて東京拠点の一部を群馬へ、本社機能の一部を京都へ移すなど拠点を分散させ、人員に余裕が生まれた部門から不動産事業やIT事業を立ち上げていく道を選んでいます。

──そこから、事業の多角化がさらに加速していったのですね。

五十嵐様:コロナのような事態は、10年に一度は起こり得ると考えるようになりました。だからこそ、外部環境に左右されない強固な基盤をつくる必要があると痛感し、以後は毎年2つほどのペースで新しい事業を立ち上げています。外国人材のサポートを主軸としながら、雇用形態、住まい、教育、清掃、そして商社機能まで、一つの会社であらゆる支援をワンストップで提供できる体制を築いてきました。こうした取り組みの積み重ねにより、コロナ禍で2億円ほどまで落ち込んだ売上は、今期30億円まで回復し、来期には40億円に達する見通しです。当社が信じてきた考え方や理念が、この3、4年で結果として表れてきたと感じています。

活躍する社員について

──これまで多くの経営人材を輩出されてきた中で、活躍する社員に共通する資質はありますか。

五十嵐様:少し変な言い方かもしれませんが、いい意味での「大バカ者」であることだと思います。よく分からないけれど腹の据わった元気がある、前向きな人ですね。昨年12月、後継者不在で悩んでいた年商7億円の会社を引き継いだ際には、28歳の社員である庄司大輝に代表を任せました。彼のこれまでの経歴や経験を振り返れば、正直なところまだ物足りない部分も多くあります。それでも彼は旗振り役として力を発揮するタイプで、「来年200パーセントを目指そう」と声をかければ、迷わず「やります」と応じてくれます。口にした以上は責任が伴いますから、見えないところで人一倍努力を重ねる姿勢を、当社は大切にしています。

──採用の入り口から、そうした人材を見極めていらっしゃるのでしょうか。

五十嵐様:むしろ、入社前から明確な目標を持っている人ばかりではありません。今も同席している広報担当も、私自身が面接をしましたが、当初は営業職としての入社を想定していました。ところが入社が決まるまでの間に、当社にはそれまで存在しなかった広報という仕事に興味を示したため、担当してみないかと声をかけたところ、喜んで引き受けてくれました。ほかにも、海外でネイリストとして働いていた社員が、営業の本業を続けながら社内副業として社員向けのネイルサービスを提供するなど、それぞれの得意分野を生かした挑戦を後押ししています。本業と副業の両方に力を注ぐことは、社会との接点を増やし、人脈や新しい経験を得ることにもつながると考えています。

──採用そのものにも、独自のこだわりがあるそうですね。

五十嵐様:当社は今も、求人媒体にほとんど頼っていません。新卒はハローワークからの応募が中心で、担当者自身が大学に足を運び、推薦を受けたり、直接出会った学生に声をかけたりしています。今年は8名の新卒に加えて中途を含む11名を採用しましたが、それに対して160名以上の応募がありました。来年に向けても、16名の採用枠に対してすでに150名以上の応募が集まっています。先輩が後輩を紹介するリファラル採用も多く、こうした形で入社する社員が多いからこそ、当社の考え方や文化も自然に浸透しやすいのだと感じています。

WBPグループ株式会社で活躍する多国籍な社員たち

会社の事業について

──改めて、貴社の事業内容について教えてください。

五十嵐様:当社の事業の軸は、外国人に特化した総合人材サービスです。そのうえで、不動産事業、国際インターンシップ事業、技能実習・特定技能に関する事業、ビルメンテナンス、日本語学校の運営、商社事業まで、幅広く手がけています。今日、日本で外国人材のサポートを手がける会社は、大手から中小まで数多く存在します。しかし、雇用から住まい、教育、清掃、商社機能に至るまで、一つの会社であらゆる支援を担う会社はほとんどありません。当社は、その「ワンストップ」を実現することを目指してきました。

──幅広い事業展開が、人材育成の考え方にも影響しているのでしょうか。

五十嵐様:当社が手がけてきた事業は、どれも世の中に元からなかったものではありません。人材紹介も派遣も、決して珍しい事業ではないのです。ただ、当社は登録者を持たない派遣会社、看板を掲げない不動産会社として、あえて一般的な手法とは異なるやり方を選んできました。人材にリファラル採用を掛け合わせ、不動産にSNSや知人のネットワークを掛け合わせることで、広告費をかけずに事業を成り立たせています。人材と商社、人材と教育というように、既存の事業を掛け合わせることで新しい付加価値を生み出す。この考え方こそが、社員それぞれの得意分野を生かした挑戦の場を広げ、育成の機会にもつながっていると考えています。

WBPグループ株式会社が展開する9つの事業内容

未来への取り組み・今後の展望

──今後の展望をお聞かせいただく前に、これまでの歩みの中で「もう難しいかもしれない」と感じた瞬間はなかったのでしょうか。

五十嵐様:社員には話したことがありませんが、個人的にそう感じた瞬間は3回ほどあります。1回目はコロナ禍のときです。もう1回は、事業を増やすほど固定費も増えていく中で、今後さらにホールディングス化を進めていこうと考えたときでした。それでも、深呼吸をして考え直すたびに、当社が目指す世界をどうしても実現したいという思いに立ち返り、これまで誰にも弱音を吐かずに歩んできました。もう一つの出来事は、昨年、4歳の娘が病気で10か月にわたり入院したことです。その間はほとんど仕事に手がつかない状態でしたが、同時に、物事をじっくりと考える時間にもなりました。人、物、お金、あらゆることへの執着を手放そうと決めたのは、その時期のことです。

──その経験が、今の将来像にもつながっているのですね。

五十嵐様:会社の将来像はもちろん、私自身の将来についても、その時期に改めて考えを整理しました。社員には、私が2034年に50歳を迎えるタイミングで代表を退任すること、それまでに会社を300億円規模に育てることを、すでに共有しています。退任後は、株式もすべて手放して寄付し、最終的には当社の株主が財団となる仕組みを描いています。その財団を通じて、ご飯を満足に食べられない子どもや、学校に通えない子どもたちを支援していくことが、次の目標です。事業を営む以上、売上や利益はもちろん大切ですが、最終的にはその利益を子どもたちのために還元していきたいと考えています。社内の憲法として、3年以上在籍した社員による選挙で代表を選ぶ仕組みも整えました。こうした将来像やスケジュールを社員全員で共有できていることが、日々の迷いのなさにもつながっていると感じています。

──後継となる経営者の育成についても、独自の取り組みがあるそうですね。

五十嵐様:自力では立て直しが難しい会社を、当社の若手社員に任せる形での事業承継にも力を入れています。後継者が不在の会社を引き継ぎ、経歴や経験よりも本人の意欲を重視しながら、次の世代の経営者を育てていく方針です。あわせて、社員の幸福度を高める取り組みも進めています。外国籍社員が多いことから、母国への帰省や家族との時間を十分に取れるよう、全社員に年1回14日間の連続休暇取得を徹底しています。資産形成の支援として、2年前からは社員がNISAで積み立てた金額に対して当社が10パーセントを上乗せする制度も導入しました。今後は、子育てとの両立支援や、多文化共生をさらに進める仕組みづくりにも力を入れていきたいと考えています。国籍や言語、文化の違いを強みに変えながら、日本と世界をつなぐグローバル企業として、これからも進化を続けていきます。

✺ Interviewees

お話を伺った方

  • 五

    代表取締役

    五十嵐一 様

    1984年、内モンゴルの遊牧民の家庭に生まれる。2011年3月、関西国際大学卒業。同年4月、株式会社ウィルオブ・ワーク入社。2016年2月、株式会社ワールドビジネスパートナー(現:WBPグループ株式会社)を設立し、代表取締役に就任。2022年6月、有限会社ワイエムエス(現:WBPセキュリティ株式会社)代表取締役に就任。2024年10月、WBP商事株式会社代表取締役に就任。外国籍人材の活躍支援を軸に、多角的な事業を展開している。

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