厚生労働省が2026年9月29日に公表した「令和8年版 労働経済の分析」は、AIを使う労働者への企業の訓練が、日本では主要国より少ないと整理しています。OECDの調査(2025年)をもとにした図では、AIと協働するための訓練や財政支援が企業から提供されていると答えたAI利用者は、金融・保険業で日本26.9%、米国60.5%、英国57.2%、ドイツ54.8%でした。AIを使う社員の訓練は、経営、人事、管理職、本人のそれぞれに受け持つ部分があり、どこかが空いたままだと全体が進みません。当社は、それぞれの受け持ちを先に決めることを提言します。
金融・保険業の日本は26.9%、製造業は33.3%にとどまる
「令和8年版 労働経済の分析」は、第Ⅱ部で「AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題」を扱っています。企業から訓練を受けているAI利用者の割合は、金融・保険業と製造業について、日本、米国、英国、ドイツの4か国で比べられています。
区分 | 日本 | 米国 | 英国 | ドイツ |
|---|---|---|---|---|
金融・保険業 | 26.9% | 60.5% | 57.2% | 54.8% |
製造業 | 33.3% | 62.7% | 51.7% | 54.2% |
数値は、AI利用者のうち、AIと協働するための訓練や財政支援が企業から提供されていると回答した割合です(第2-(1)-16図)。白書は、AIと協働するための人的資本投資の取組で、日本は国際的に遅れていると指摘しています。日本では、企業の訓練や財政支援があると答えたAI利用者が、この二つの業種とも半数に届いていません。
図解01
金融・
国際的に遅れている
日本の
米国の
日本の
米国の
- 1経営AI投資と
人への 投資を 同じ表で 決める - 2人事訓練の
内容と 学ぶ 時間を 制度として 用意する - 3管理職使い方を
部署で 共有し、 失敗を 責めない - 4本人学ぶ
内容の 目安と 相談先を 届ける
訓練と学び直しがそろうと、仕事の改善を実感する人が増える
同じ白書は、日本のAI利用者を対象にした図で、企業の訓練と本人の学び直しの関係を示しています(第2-(1)-15図。出典はOECD(2025)「Artificial Intelligence and the Labour Market in Japan」)。企業の訓練等と、本人のリ・スキリングなどの学び直しの両方があったAI利用者は、どちらもなかった利用者に比べて、AIの利用後に「仕事のパフォーマンス」が改善したと答えた割合が37.0ポイント高くなっています。「身体の健康と職場における安全性」でも、46.2ポイント高い結果です。
この割合は、AIの利用前後で各項目が「改善した」または「少し改善した」と答えた人の割合です。差が訓練や学び直しの効果だけによるものかは、図からは分かりません。それでも、会社が訓練を用意し、本人も学ぶという両方がそろった場合に、利用者の実感が高いことは読み取れます。
経営の側では、AI投資と人への投資を同じ表で決める
白書は、経営戦略と人材戦略を連携させ、AI投資と人的資本投資の双方を進めることが重要だとしています。連携の実態を示す数字もあります。労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」(2025年)では、数年先の事業展開を考慮して、その時に必要となる人材を想定しながら能力開発を行っている企業は、300人以上で14.2%、9人以下で8.0%でした。
白書は、中小企業を中心に、経営戦略と人材戦略の連携が弱いことがうかがえるとしています。AIのツールを選ぶ場面では、費用や機能と並べて、使う社員が学ぶ時間と教える人の手当も表に書き出し、同じ会議で決めてください。これは当社の考え方です。
人事の側では、訓練の内容と学ぶ時間を制度として用意する
学び直しをしたことがない理由を聞いた、労働政策研究・研修機構「労働者の働き方の現状と意識の変化に関する調査(正社員調査)」(2026年)を、白書は引いています。全年代で時間に関する理由の割合が高く、若年層では「何をしたら良いのか分からない」の割合も高いとされています。費用面の理由も、一定の割合です。
時間が足りない人に、受講の案内だけを出しても動きません。業務時間の中に学ぶ枠を置き、職種ごとに「ここまで使えれば足りる」という目安を示すと、若年層が抱える「何をしたら良いのか」にも答えられます。学ぶための休暇の制度を使う場合の整備は、教育訓練休暇給付金とは|就業規則の整備から社員への周知までで扱っています。
管理職の側では、使い方を部署で共有し、失敗を責めない
管理職の受け持ちは、日々の仕事の中で使い方を共有し、うまくいかなかった経験を出しやすくすることです。白書の図からは、現場での共有の実態は読み取れません。ここは当社の見方です。
たとえば、週の会議の最後に10分、AIで試したことと結果を一人ずつ話す場を置きます。出力の内容を確かめる責任が、使った本人と上司のどちらにあるのかを部署で決めておくと、迷ったときに相談しやすくなります。失敗の共有を責める場にしてしまうと、AIを使っていること自体が見えなくなります。
本人に届けるのは、学ぶ内容の目安と相談先
本人に届けたいのは、何をどこまで学べばよいかの目安と、相談できる先です。学び直しをしたことがない理由の選択肢には、「会社から必要なスキルの明示がない」「スキル習得の相談をする先がない」が含まれています。それぞれの割合は、白書の本文には示されていません。
目安と相談先は、一枚の資料にまとめて、AIを使い始める社員に渡せます。白書は、論理的思考力やコミュニケーション能力といった「メタスキル」の重要性にも触れています。メタスキルが高い人ほど年収が高い傾向は、労働政策研究・研修機構「就業者のライフキャリア意識調査」(2021年)で見られましたが、因果関係までは特定されていません。
白書の数字から読み取れないこと
白書の数字から、次のことは読み取れません。
- 図の対象は金融・保険業と製造業のAI利用者で、ほかの業種や、従業員規模ごとの訓練の割合は示されていません。
- 調査の対象者数と実施時期は、白書の該当箇所に書かれていません。原典のOECD(2025)で確かめる必要があります。
- 企業が提供する訓練の内容や時間数は分からず、26.9%や33.3%の中身は一様ではありません。
白書は、AIによって大きな雇用減少が生じている証左は現時点では得られていないともしています。訓練の整備は、雇用を守るための対策としてではなく、2つ目の見出しで示した「仕事のパフォーマンス」の差のように、使う人の仕事の質を高める手当として考えるのが、白書の数字に沿った読み方です。
まとめ
白書の図では、AIを使う労働者に企業が訓練や財政支援を出している割合は、日本の金融・保険業で26.9%、製造業で33.3%でした。企業の訓練と本人の学び直しがそろうと、仕事のパフォーマンスが改善したと答える割合が、どちらもない場合より37.0ポイント高くなっています。経営、人事、管理職、本人のそれぞれが何を受け持つかを決め、AIを使っている社員が誰で、どんな訓練を受けたかを部署ごとに書き出すことが、最初の一歩です。
出典:厚生労働省「令和8年版 労働経済の分析 AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題」(2026年9月29日公表。2026年10月23日に確認)公表ページ/同 第Ⅱ部第1章(PDF)、第3章(PDF)
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Editor’s Note
本記事は WONDERFUL GROWTH 編集部が、現場の人事・経営者の方々への取材と 自社支援データを元に作成しています。ご質問・取材のご依頼は お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
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